2017年、年金制度に大きな変革がありました。年金受給者資格が25年以上から10年以上に短縮されたことです。受給資格がゆるくなったことで、年金を受けられる人が増えるわけなので嬉しい変化ですよね。しかし、短縮されたからといってよいことばかりではありません。短縮されたことによって、年金の他の問題が浮き彫りになった部分もあります。年金受給者資格が変更されたことによる影響と注意点をまとめました。

年金受給資格10年に短縮でどんな影響がある?

2017年(平成29年)8月1日より、老齢年金で必要な年金受給資格期間が変更されました。それまでは25年年金に加入していないと老齢年金がもらえなかったのですが、改正によって10年に短縮されたので、以前より15年受給資格が縮まったことになります。

それではなぜ25年だった受給資格が、15年も縮まったのでしょう。年金受給資格が変更されたのには2つの理由があります。詳細を確認してみましょう。

年金を受け取れる人が増える

年金の受給資格が10年に短縮される以前は、加入期間25年を満たしていないと原則年金は1円ももらうことができませんでした。それが10年に短縮されたことで、これまで年金がもらえなかった人たちが受け取れる資格を得たわけですから、単純に改正によって年金を受け取れる人が増えました。

そもそも年金に加入していなかったとはどういうことだと感じる人もいるかもしれませんが、今のような年金制度が確立したのはそこまで昔ではありません。年金制度ができたのは1961年(昭和36年)のこと。さらに、現代のように国民全員が強制加入になったのは1986年(昭和61年)以降です。1986年以前は年金への加入が任意の人もいたため、人によってはカラ期間が存在する人もいます。

つまり、現代のようにがっちりとした年金制度ではなかったため、故意でなく年金に加入していなかった人もいるのです。そのためか、無年金者も多く社会保障という面で問題になっていました。10年に年金受給資格が短縮されたことにより、年金支払い期間が10年以上25年未満だった約64万人に影響があったとされています。

制度の目的は無年金者救済

そもそも老齢年金の受給資格が10年に短縮されたのは無年金者を救済するためです。無年金なので、普通老後に支払われるはずの年金という収入がまったくないことになります。それでは生活が苦しいだというということもあり、年金受給資格が見直されました。

見直された箇所が年金受給資格だったのは、前々から年金受給資格の条件を下げれば無年金者で受け取れる人が大きく増えることが見込まれていたためです。受給期間の25年にわずかに足りていなかった人など、制度導入でより多くの人が年金をもらえるようになっています。

さらに無年金者の問題は、生活保護にも及んでいました。適切な社会保障という意味で年金受給資格の短縮は影響があったと考えられます。ただし、受給資格の短縮によって影響を受けたのは、制度が変更される前に年金加入者だった世代。1986年以降は加入が義務付けられているので、現在の無年金者への対応という意味が大きいです。

受給資格短縮でも変更のないもの

改正によって老齢年金の受給資格年数は短縮されましたが、短縮されたからといって手放しでは喜べません。必要な期間が短縮されたからといって、年金受給について他の部分が合わせて変更されたわけではないためです。具体的には、年金の計算と遺族年金について注意したいことが2つあります。年金受給資格が10年に短縮されても変更のなかった年金のルールについて確認してみましょう。

年金の計算式に変更はなし

年金の受給資格には変更がありましたが、年金の計算に変更はありませんでした。つまり、10年なら10年に見合っただけでの年金しか支給されないということです。受給資格が短縮されたからといって、10年の加入しかない人が25年加入分の年金を受けられるわけではありません。

公平を保つためではありますが、いくら年金受給資格が10年に短縮されたからといって、そこまで年金がもらえるわけではない点に注意したいです。

なお、加入期間が10年だった場合の国民年金の受給額は年間20万円にも満たないくらいです。月額にすると1.5万円くらいになります。会社員だった人の厚生年金については年間50万円くらいがよいところ。月々4万円程度です。国民年金(基礎年金)と厚生年金を合わせても月々5万円ほどなので、老後の生活の多少の足しにはなっても、年金収入だけで生活費をまかなうことはできません。

遺族年金の条件も変更なし

年金と聞くと老齢年金をイメージしやすいですが、他には年金に加入していた人が亡くなったときの遺族年金もあります。遺族年金についても現行法のままで、老齢年金が10年に短縮されても条件は変更されていません。

遺族年金には、遺族基礎年金と遺族厚生年金がありますが、注意したいのが遺族厚生年金です。遺族厚生年金受給の条件に、亡くなった人が老齢厚生年金の受給資格を満たしていることという条件があります。老齢年金の受給資格は10年に短縮されたので、遺族厚生年金も10年になったと考えられそうですが、遺族厚生年金の受給資格は据え置きで25年以上です。10年以上加入していても遺族厚生年金をもらうことはできません。

ただし、遺族基礎年金は加入しなければならない期間の3分の2以上支払っていること、1年以内に未納がないことが条件なので、遺族基礎年金だけ受け取れる人もいます。

年金の受給額を増やす方法

10年や15年年金に加入していたくらいでは支給される額が少ないからと半ば諦めてはいないでしょうか。満額まで増やすことは難しいかもしれませんが、実は年金の受給額は増やすことができます。方法としては4つです。

受給額が増えれば老後の生活も少しは楽になるはずです。4つの年金を増やす方法と注意点を解説していきます。自分でも取り入れられそうなものか考えながら確認してみましょう。

60歳から65歳まで任意加入する

60歳から65歳までなら任意加入を利用する方法があります。対象者は厚生年金や共済年金に加入していない人です。老齢基礎年金受給資格期間、つまり10年以上加入していない場合、納付済み期間が40年なく満額給付を受けられない場合の制度です。

納付済み期間が足らず年金を増やしたい人であれば65歳までとなりますが、受給期間にすら達していない場合は70歳までなら加入することができます。受給資格がない人でも、60歳からの加入で70歳まで10年あるため、受給資格の10年を満たせるのがポイントです。60歳を超えてから何とか受給額を増やしたいと考えている人にぴったりの制度ではないでしょうか。

また、日本国内に住んでいる人に限らず、海外に居住している日本人も対象で、20歳以上65歳未満の日本人であれば任意加入ができます。ただし受給期間をさかのぼっての加入はできないので注意しましょう。

猶予期間や免除期間分の追納をする

学生時代や給与が少ないときに猶予を受けた場合、または免除を受けた場合に追納することができます。追納できる期間には制限があり、承認を受けた月の前から10年です。10年よりも古いものについては追納することができません。また、原則古いものから支払っていくことになります。支払った追納分は社会保険料控除にできるので、課税所得が高くなりそうなときの税金対策として使えるのが魅力です。追納は国民年金になるため、自営業者やフリーランスなどの追納が一般的です。

また、国民年金の追納は自動でできるわけではありません。年金事務所で申し込む必要があります。申し込み後、厚生労働大臣の承認があり、納付書が送られてくる形になるので、納付書を使って追納するようにしましょう。

後納制度を利用する

後納制度とは、納め忘れた保険料を後から納めることです。2015年9月30日までは過去10年にさかのぼって後納できましたが、残念ながら制度は終了しました。2015年10月1日から新たに始まった後納制度は、過去5年にさかのぼって保険料を納められるものです。2018年9月30日までの期間が決まった制度になっています。

20歳から60歳未満で5年以内に納め忘れている人、または任意加入中に納め忘れがあった人が対象です。さらに65歳以上で任意加入中の老齢年金の受給資格がない人も後納制度を利用できます。

ただし、制度利用には申込書の提出が必要です。2018年9月30日が期限になっているので、後納制度を利用したい場合は、申込期限である2018年9月28日までに手続きを済ませましょう。

繰り下げ受給制度を利用する

もう1つ実質的に年金の受給額を増やせるのが繰り下げ受給制度です。繰り下げ受給制度は、他の制度とは違い年金を追加で支払うような制度ではありません。通常年金の受給は65歳からスタートしますが、繰り下げによって66歳以降、最大70歳までに年金受給をずらすことができます。

繰り下げ受給制度を利用することによるメリットは、繰り下げ後の年金受給額を増やせることです。月単位で年金の増額があります。

ただし繰り下げることによって、年金の受給がない期間がさらに長くなってしまいます。繰り下げ受給をおすすめするのは、65歳を超えても年金収入なしで生活ができる人、65歳以降の引き続き仕事をしようと考えている人です。まだまだ現役で頑張れる人ならよいですが、年金受給が遅くなることで生活が苦しくなりそうな場合はおすすめしません。

また繰り下げ受給は、後納や追納などがない場面で活用が期待される制度なので、後納や追納がある場合は、そちらを先に支払った方がよいでしょう。

年金だけでは不安な場合の対策方法

ご紹介したように年金を繰り下げて受給したり、支払い漏れや免除を受けた年金を支払ったりして受給額を増やす方法はあります。しかし最大でもさかのぼって支払えるのは追納の10年です。確かに毎月の受給額は増えますが、そこまで大きく増やすことはできないでしょう。

年金の受給額を増やすのには限度があるため、老後の生活が不安ならもっと別の方法を考える必要があります。年金だけに頼らず、自分で老後の資金を準備することです。老後の資金を増やすにはどのような方法があるのか、初心者でも取り組みやすい3つの方法を確認してみましょう。

預貯金

まず預貯金によって資産を作る方法です。預貯金といっても普通預金もあれば定期預金、積立式定期預金などいくつかの種類があります。老後の生活費を目的にお金を貯めたいのであれば、普通預金よりも金利が高い定期預金や積立式定期預金がおすすめです。積立式定期預金であれば、指定した普通預金口座から自動で積み立てできるので、貯金が苦手な人でも無理なく利用することができます。

インフラに弱い部分はありますが、銀行が倒産しない限り元金割れするリスクはほとんどないので、より安全な金融資産だといえるでしょう。資産を減らすことなく確実にお金を貯めたい人にはぴったりの方法です。

ただし、預金は株式や投資信託など他の金融商品と比べるとリターンが小さいです。特に低金利の現代においては、よっぽど資産がない限り思った通りの利息を得ることができません。複利で資産を増やす必要がないなら預金でも十分でしょう。

年金保険

将来、公的年金のようにお金を受け取れるために年金保険を活用する方法があります。年金保険の特徴は、保険も利用しながらお金を貯めていけること。契約満了までしっかりと積み立てていけば、預金よりもリターンを望めます。

ただし、しっかり払込みをした場合の話です。年金保険の場合契約期間が長くなることもあるので、契約途中で他の保険に切り替えたくなったり、支払いが厳しくなったりで解約したいと思うこともあるでしょう。しかし、年金保険を解約したらこれまで支払った分すべては戻ってきません。契約期間が浅ければ、支払額の半分しか戻ってこないこともあるでしょう。

解約返戻金の率が低く、途中で解約するとデメリットが大きいのが年金保険で注意したいポイントです。ただし、解約しなければ保険と年金のメリットは大きいので、保険も年金もどちらも契約したい場合は検討してみるとよいですね。

投資

投資とは、より大きなリターンを見込んで積極的に経済的な行動をすることです。例えば、株式投資や投資信託、先物取引などが投資にあたります。投資=ギャンブルのイメージを持つ人もいるかもしれませんが、ギャンブルではありません。基本的に投資した額が1度にすべてなくなることはないためです。

ギャンブルのようなものだと勘違いされやすいのは、投資が元本保証のない金融商品であるため。リターンも大きい分、リスクも大きいです。投資した額が減ってしまうことも少なくありません。

ただし最近では、投資の壁がなくなりつつあり、プロに運用を任せられる投資信託をはじめ、AIに投資の割合を診断してもらうものや、少額からの積み立て投資が可能な金融商品も出てきています。投資に関しての知識がなくても始めやすくなっているのが現状です。投資は難しいものと思わずに、案外AIなどの最新技術を使えば他の金融商品よりも魅力的なものに映るかもしれませんね。

まとめ

年金受給資格が10年に短縮されたことにより、年金を受給できる人は増えました。年金がもらえる可能性が増えたことはよいことですが、一方で年金の受給額や老齢年金以外の遺族年金の受給条件については変更されていません。年金が受給できるようになっても、生活できるほどの十分な年金が支給されないこともあります。

年金の受給額を上げたいなら追納や後納などの方法もありますが、増額できる年金は限定的です。これからの時代は自分で老後の生活費を作っていく時代。預金や保険、投資などを活用して老後のための資金運用を始めましょう。