将来何が起こるかわからないからこそ、老後の生活費を公的年金だけに頼るのは不安です。そこで考えたいのが、私的年金による老後資金の形成。個人年金保険は、そんな老後資金を作るための1つの選択肢です。
そもそも個人年金保険とはどのようなものなのか、メリットやデメリットは何か、個人年金保険を利用する前に知っておきたいことをまとめました。
「個人年金保険とは?」
十分な老後資金を用意するためにできることは、公的年金以外にも私的年金などを利用して、将来年金として確実にお金を受け取れるようにしておくことです。個人年金保険は、そんな私的年金の中の1つ。
ただ、個人年金保険といっても保険会社などがメインで販売している金融商品になるため、その内容もさまざまです。個人年金保険を利用する前に知っておくべき、個人年金保険の基礎知識と種類について確認していきましょう。
■個人年金保険とはどのような制度か
生命保険協会の2017年度版「生命保険の動向」によると、平成28年の個人年金保険の保有契約数は2,175万件でした。前年の平成27年は2,075万件、その前の平成26年は2,050万件であることから、個人年金保険への関心が高まっていることがわかります。
そもそも個人年金保険とは、主に将来の老後資金を年金として受け取るために、現役世代のうちに資金を積み立てる保険商品のこと。公的年金とは違い、自由に加入脱退ができる私的年金の1つです。基本的には国民年金などの公的年金額を補うために契約します。
個人年金保険が国民年金や厚生年金などの公的年金と異なるのは、所得などで支払額が縛られないこと。将来受け取りたい年金の額を基準に、払込期間や年金の受け取り期間、さらに毎月の支払額まである程度自由に決めることができます。自分の現在のライフスタイルと将来のライフスタイルをイメージしながら柔軟に契約できるのが特徴です。
■個人年金保険の種類
実際に個人年金保険を取り扱っている保険会社などで商品をみていくと、さまざまな内容のものがあることがわかります。
まず知っておきたいのが、受け取り期間による個人年金保険の種類。受け取りに関しては、終身保険、有期保険、確定保険の3種類に分けることができます。
終身保険は、公的年金にも採用されている受け取り方法。年金受給開始から生きている限りは、一生年金を受け取ることができます。有期保険は、年金の受け取り期間が決まっているもの。10年や15年などあらかじめ年金受給開始から受け取る期間を設定するものです。最後に確定保険は、被保険者の生死を問わない受け取り方法。終身保険と有期保険のハイブリットのような存在で、あらかじめ契約で決めた期間中なら、被保険者がどのような状態(生きていても亡くなっていても)であっても年金を受け取れます。
将来受け取る年金額に関しては、年金額が確定しているものの他、保険会社の運用成績で年金額が変わる変額個人年金保険、為替で変動する外貨建て個人年金保険もあります。個人年金保険を比較する際は、受け取り期間、受け取り額について注意しておきたいです。
「個人年金保険のメリット・デメリット」
個人年金保険は、生命保険などの払い込みと同じように、銀行口座から引き落としのようなケースがよくみられます。毎月自動的に積み立てていくものなので、計画的に老後の資金を形成するのに向いているでしょう。
しかし、公的年金以外の私的年金として必ずしも個人年金保険が良いというわけではありません。個人年金保険にもメリット・デメリットがあります。利用したいと思ったときどのような点に目を向けるべきなのか、メリットとデメリットの両方の面からみていきましょう。
■メリット
成り行き貯蓄は、その月の出費の状況に合わせて貯金額を変えていくという方法。毎月一定額の縛りがないので気軽さはありますが、貯金のギリギリまでお金が手元にあるため、気が大きくなって使い過ぎてしまい実はお金が貯まりにくい方法です。
一方の個人年金保険は、毎月一定額を支払っていく方法。携帯電話代などのように、銀行口座などから引き落としたりする方式で自動的に積み立てられていくため、成り行き貯蓄のように毎月の状況に合わせての貯蓄にはなりません。その代わり確実に積み立てられるので、コツコツと貯金をするのが苦手な人には向いている方法です。目標までしっかりと確実にお金を積み立てることができます。
もう1つ知っておきたいのが、税金面でのメリット。所得税の所得控除には生命保険料控除がありますが、対象となるのは生命保険料だけではありません。個人年金保険料も別途控除することができます。
契約の内容によっては全額控除にならないこともありますが、年額にして旧個人年金保険料控除(平成23年12月31日までの契約)なら5万円、新個人年金保険料控除(平成24年1月1日以降契約)なら4万円まで控除することが可能です。
■デメリット
個人年金保険で気を付けなければならないのが、元本保証がされない可能性、つまり払い込んだ保険料分が保証されない可能性があるということです。定額個人年金保険であれば将来もらえる額が確定していますが、変額個人年金保険や外貨建て個人年金保険に関しては、元本より増える可能性もあれば、元本より受け取り額が少なくなってしまうリスクもあります。
それでは定額個人年金保険が良いかというと、個人年金保険はインフレに弱いので必ずしも良いとは限りません。将来物価が上がった場合、例えば同じ1,000万円の受け取りでも実質800万円程度の価値にしかならないという未来も予想されるのです。これは、100円のものが125円に値上がりするなど物価の上昇によって引き起こされます。
さらに、個人年金保険は途中解約でのリスクも大きいです。満期まで払い込んだ場合、支払額の100%以上の返戻も期待できますが、途中で解約すると支払額100%が戻ってくることはまずなく、将来の個人年金がなくなるばかりか、返戻されない分は無駄金になってしまいます。
「個人年金保険の返戻率は?」
個人年金保険のメリット・デメリットの部分で解約のときの返戻について触れましたが、解約だけでなく実際に年金をもらうときの返戻率がどうかは特に興味のある部分ではないでしょうか。
返戻率が高いということは、それだけ支払った額に対してのプラスが大きいということ。実際のところ、個人年金保険の返戻率はどのくらいなのか、個人年金保険の返戻率を上げるためにできることも合わせて紹介します。
■実際の返戻率はどれくらい?
返戻率100%とは、個人年金保険で積み立てた額そのままのこと。100万円の積み立てなら100万円年金として支給されるという意味です。
個人年金保険は、受給期間や積み立ての方法によって、国の経済状況によって、また保険会社によって返戻率は変わってくるため、一律にどのくらいとは断言できません。だいたい105%前後くらいと低めに想定しておいた方が良いでしょう。仮に105%だとすると、30年払い込んだとして30年で5%の利益です。実際の計算はもっと複雑ですが、単純に1,000万円の積み立てなら増えるのは50万円程度になります。
リスクもありますが、投資信託など他の金融商品では年間5%の利益を出せる可能性もあるため、決してお得とはいえないかもしれませんね。
しかし、中には返戻率110%、120%という個人年金保険もあります。ただし、こうした個人年金保険は外貨建て個人年金保険や確定年金など、期間が固定されていたり、リスクが高めだったりする可能性が高いです。
■返戻率をアップするためにできること
まず個人年金保険の返戻率をアップさせるためにできることは、返戻率の高い個人年金保険を選択することです。すでに他の個人年金保険を契約している場合は、契約からの日が浅い方が解約金のダメージも小さいので、早めに乗り換えるようにしましょう。
ただし、返戻率の高い商品については、外貨建て個人年金保険など、円建て個人年金保険のような一般的なものと比べて元本割れのリスクが発生する可能性もあります。契約の際は、返戻率だけに目を向けるのではなく、リスクもしっかり確認することが大切です。
もう1つ、返戻率をアップさせるためにできるのが、受給繰り下げをすること。公的年金も同じですが、受給する年齢を任意で引き上げることによって、返戻率を上げることができます。ただし、受給の繰り下げによって、本来年金をもらうはずだった年齢に年金をもらえなくなるので、仕事を続けるなど対策も考えていく必要があるでしょう。
「個人年金保険以外に活用できる私的年金」
個人年金保険は、貯金が苦手な人にとって、自動で積み立てができるメリットのある金融商品です。さらに返戻率100%以上の個人年金保険もあるため、実際に積み立てた分よりも多めに年金支給を受けることができます。
しかし、デメリットの部分として元本割れするかもしれないリスクもありますし、返戻率自体決して魅力的とはいえないところもあります。公的年金以外で老後資金を形成する方法として、個人年金保険以外の選択肢はないのでしょうか。個人年金保険以外でも活用できる3つの私的年金を紹介します。
■積立定期
定期預金は、1カ月や1年など満期日を決めて銀行にお金を預け入れる預金の方法です。期間で縛られる分、普通預金よりも金利が高めに設定されているのが特徴。普通はまとまった額を一気に預け入れるものですが、定期預金の中には積立定期というものもあります。
積立定期とは、個人年金保険のように毎月決まった金額を積み立てていくスタイルの定期預金のこと。個人年金保険とは違い契約に縛られないため、生活に合わせて毎月の積立額を柔軟に変更することもできます。ボーナス月の積み立て設定もできるので、ボーナスにお金を使い過ぎてしまう人にもおすすめです。
また、短期であれば1カ月、長ければ10年などのように自由に期間の設定ができるので、老後の資金形成以外にも活用することができます。教育資金や住宅購入資金など、お金が必要なときに再び定期預金に入れるのではなく、引き出して使用することができる流動性の高さも魅力です。
■iDeCo
iDeCoとは、個人型確定拠出年金のこと。加入義務のある国民年金のさらに上の階層にある私的年金制度です。個人事業主やフリーランスの他、企業型確定拠出年金に加入できないサラリーマンなどが加入対象になります。
国民年金のみ加入の場合、国民年金基金と合わせて月額68,000円まで積み立てることができます。iDeCoの特徴は、自分で運用方法を選択できること。公的年金なら国が、個人年金保険なら保険会社が掛金を運用しますが、iDeCoの場合は自分自身に運用の責任があります。運用できる商品は、各金融機関が用意している定期預金と投資信託のいずれかです。
もちろん、投資信託など選んだ金融商品によっては元本割れのリスクが高まる可能性があるため、金融リテラシーを身につけることが大切ですが、うまくいけば掛金以上に年金を増やすことができます。
また、掛金全額に対する税金の控除、運用益の税額控除、年金受け取りの際の税金面での優遇もあるため、税金面でもお得な制度だといえるでしょう。
■国民年金基金制度
国民年金基金も、iDeCo同様、国民年金の上の階層にある私的年金制度です。特徴は、将来受け取れる年金額が決まっていること。将来受け取りたい年金額に応じて掛金を決定するため、老後の資金計画が立てやすいです。また、個人年金保険と同様に解約してすぐに現金化することは難しいですが、積立額の変更はやや柔軟に対応しています。生活に合わせて積立額を変えることも可能です。
さらに知っておきたい国民年金基金の特徴は、受け取り方法を個人年金保険のように選択できること。保証ありまたはなしの終身保険への加入が必須となりますが、それ以外の口数に関しては15年や10年などの有期保険にすることもできます。何かとお金が出ていきやすい60歳から75歳までの間の年金を手厚くすることも可能です。
また、公的年金とは違って、契約次第では60歳からでも受け取れるのが国民年金基金。60歳でリタイアすると考えた場合、公的年金が支給される65歳までの間の繋ぎの資金としても活用できます。
まとめ
公的年金の受給だけでは十分とはいえないかもしれない老後。そんな老後の生活を支えるものとして考えていきたいのが私的年金の活用です。方法としては、保険会社などの個人年金保険を利用するという方法があります。
もしものときの保険になって、さらに老後の資金形成もできる点は大きいですが、契約の縛りや、金融商品としての魅力に劣る点は否めないでしょう。私的年金として、積立定期、確定拠出年金、国民年金基金の活用も考えていきたいです。