「年金が受給年齢になったとき、果たしていくらもらえるだろうか」「年金は本当にもらえるのだろうか」と、現行の年金制度に対して何かしらの不安を抱えている人もいるかと思います。日本の公的年金制度は、一部資金の運用によって将来の年金を確保する新たな段階に入っていますが、20年後、30年後、将来年金がもらえるかの確実な材料にはなりません。
そこで利用を検討したいのが、iDeCo(イデコ)といわれる私的年金制度です。イデコとは何かということから、運用の注意点までお話ししていきます。
iDeCo(イデコ)とは?
公的年金をカバーする、新たな年金制度として注目されるイデコ。近ごろ耳にすることも多くなってきましたが、いったいどのような年金制度なのでしょうか。イデコの運用を考える前に知っておきたいイデコの内容や特徴、イデコの対象者について確認しておきましょう。
■イデコとは?
イデコ(iDeCo)は、個人型確定拠出年金のことを指します。公的な年金とは違い、任意で加入する私的年金の一種です。私的年金には、国民年金基金などもありますが、そうした私的年金と異なるのが、将来年金を受け取る個人が、拠出した資金を運用すること。
公的年金制度である国民年金も、私的年金である国民年金基金も、年金の運用は国が委託したところであったり、国民年金基金が委託したところであったりと、いずれも個人が運用にかかわることはありません。しかし、イデコは自分が拠出した資金を、自分の選択で運用することができます。個人に責任がかかる分、個人の好きなように資金を動かせる年金です。
また、公的年金などと同じように、イデコは拠出額全額が所得税控除の対象に含まれます。イデコ利用中の運用益においても非課税の恩恵があり、お得に運用できる点もイデコが注目される理由です。
■イデコの対象者は?
イデコが利用できる人は、2017年1月の法改正まで限定されていました。当初は、自営業者など第1号保険者といわれる国民年金対象者がメインでした。しかし、法改正によって、条件はあるものの、会社員や公務員、専業主婦(主夫)まで、原則満20歳以上60歳未満であれば、ほとんどの人が加入できるようになっています。各属性での対象者を詳しく見ていきましょう。
・自営業者やフリーランスなど
農業者年金基金へ加入している方、公的年金である国民年金の全額免除や半額免除など免除を受けている方(障害基礎年金受給者除く)以外のすべての第1号被保険者が対象です。最大月額68,000円まで拠出できます。
・会社員
企業型確定拠出年金に加入していない方、個人型への加入が可能な企業型確定拠出年金加入者が対象です。企業型確定拠出年金の有無などによりますが、最大月額12,000~23,000円まで拠出できます。
・そのほか
60歳未満のすべての公務員、第3号被保険者である満20歳以上60歳未満のすべての専業主婦(主夫)が対象です。公務員なら月額12,000円まで、専業主婦(主夫)なら月額23,000円まで拠出できます。
日本の年金制度とイデコ登場の背景
ここまでイデコの概要についてお話ししてきましたが、イデコでなくても日本には立派な公的年金制度があります。なぜ既存の公的年金制度があるにもかかわらず、イデコという私的年金制度が作られたのでしょうか。日本の年金制を取り巻く現状と、イデコ登場の背景についてお話しします。
■日本の年金制度について
日本の年金制度は、国民皆年金の形をとっており、20歳以上のすべての国民が加入しなければならない制度です。そんな年金制度のベースとなっているのが公的年金制度。全部で3階建てになっており、全ての国民が加入しなければならないのが国民年金(基礎年金)です。アルバイトや学生であっても、満20歳を超えている場合は国民年金に加入しなければなりません。
公的年金の2階建て部分にあるのが、厚生年金です。厚生年金は、会社員や公務員が加入する年金になります。自営業者よりも会社員の年金が高い傾向にあるのは、国民年金(基礎年金)に加え、厚生年金にも加入しなくてはならないため。年収が増えると厚生年金の支払額が増えますが、会社が半分負担するため実際の負担額は半減されます。自営業者の場合は、厚生年金と同じく2階建て部分にある国民年金基金に任意で加入することが可能です。
そして、年金制度の3階建て部分にあるのが、会社員を対象にした確定給付企業年金やイデコなどの確定拠出年金になります。3階部分についての加入は任意ですが、企業型の場合は企業が企業年金制度を利用していないと加入することができません。
■イデコ登場の背景
イデコ登場の背景にあるのは、企業の年金制度の変化や、会社員などの企業での働き方の変化です。高度経済成長期など、経済が発展し人材の需要があった時代は、人材確保のために年金制度や退職金制度などが充実している企業も多くみられました。会社で働く人の多くも、同じ会社で勤め上げるという働き方が一般的でした。
しかし、日本を取り巻く環境や経済状況が変わり、人々の働き方は多種多様になってきています。そんな日本人の現代的な働き方に、古い年金制度や退職金制度は合いませんでした。現代の生活に合わせた老後資金の形成として誕生したのがイデコです。
なお、イデコはこれまでの公的年金と違って自分で自己資金を運用するという部分が大きく異なります。日本ではこれまで貯蓄といえば預金がメインでしたが、低金利により恩恵が少なくなってきています。貯蓄のスタイルを貯金だけでなく投資に向けさせるという狙いもイデコには込められているのです。
イデコではどんな商品を運用できる?
ここまでイデコの特徴、イデコと公的年金の関係を整理してきました。イデコが、長期的な老後資産の形成を目的とした、自身で運用する私的年金であることはわかったかと思います。ただ、自分で運用するとはどういうことか、疑問の部分もありますよね。イデコで運用するとはどういったことなのか、どういった特徴があるのかを、イデコで運用できる元本確保型、価格変動型の2種類の金融商品をもとに紹介します。
■元本確保型の特徴は?
イデコは自分で拠出した資産を自分で運用できるとお話ししましたが、リスクのある金融商品ばかりが用意されているわけではありません。これまでの貯蓄スタイルを引き続き利用できるよう、元本確保型の金融商品の扱いもあります。
元本確保型とは、元本が減らない金融商品のこと。定期預金や貯蓄性のある保険商品のような性質を持った金融商品のことです。元本が減らないため、確実に資産を積み立てることができます。ただし、金利が低いため、あまりリターンが望めないのがデメリットです。
また、こうした元本確保型の金融商品は、急激なインフレに弱く、インフレが進むと資産が目減りするリスクもあります。
■価格変動型の特徴は?
価格変動型とは、金融商品の価値が元本を含め変動するタイプのものを指します。イデコで取り扱われている価格変動型の金融商品は投資信託です。投資信託とは、投資家から集められた資金を元手にファンドが投資する金融商品のポートフォリオ(種類や割合)を決め、受託会社が投資を実行することです。投資の委託と考えればわかりやすいかもしれません。
投資信託は、どのような商品に対してどのくらいの割合で投資するかのポートフォリオがあらかじめ明示されていて、イデコ利用者は各投資信託のポートフォリオを見て利用したい金融商品を選択します。
価格変動型は、全体としてリスクのある金融商品ですが、ポートフォリオ次第で、リスクを限りなく抑えることも可能ですし、多少のリスクはありますが積極的にリターンを狙いにいくことも可能です。リスクを可能な限り抑えたい場合は、MMFといって債権を中心に安全性を高めた投資信託もあります。
■商品の設定の注意点
元本確保型の金融商品にも、価格変動型の金融商品にも、一長一短があります。どちらのメリットも生かして運用したいなら、偏った運用をしないことです。投資のスタイルは人それぞれですが、たとえばリスクが大きくリターンが狙える価格変動型の金融商品だけで設定した場合、好調なときは良くても、不調だとこれまで拠出した資産の価値が大きく下がってしまうこともあります。
イデコはそもそも、短期的な投資で資金を増やすタイプのものではなく、老後の資産形成を目的にゆっくりと資産を形成していくタイプのものです。危険な投資ばかりをして大きく損失を出さないために、あるいは安全に徹するあまりほとんどイデコのメリットを生かせないことにならないために、バランスよく商品を設定することをおすすめします。
商品を設定していくことが難しかったり、不安があったりする場合は、銀行の窓口などを利用して相談してみるのも良いでしょう。
イデコを始める前に注意しておきたいこと
イデコにはどのような商品があるのか、どうやって運用するべきなのか紹介してきました。ただ、はじめての資産運用の場合、不安なことも多々あるでしょう。イデコをうまく取り入れるにはどうすれば良いのでしょうか。ここでは、イデコをはじめる前に考えたい4つのことを紹介します。4つの注意点を確認し、本当にイデコが自分に合ったものなのか確認しましょう。
■始めたら60歳まで引き出せない
イデコも年金制度の一種ととらえれば納得できるかもしれませんが、公的年金や国民年金基金などの私的年金、企業年金などと同様、ある一定の年齢を超えないと引き出すことができません。イデコの場合は、公的年金と違って設定年齢が低く60歳以上となりますが、それでも老後まで自由に引き出せない縛りがあるのはきついです。
完全に毎月余っている額があって、余った額をイデコに回すのであれば良いですが、ギリギリで予算を組んでいる家庭もあるはずです。そうでなくても予想外の出費が出たとき、イデコ分は引き出せないので、ほかの方法で資金を用意するしかありません。
60歳まで自由に引き出しができないものだからこそ、しっかり考えて契約することが大切です。なお、イデコは最低月5,000円からはじめられるので、イデコを契約する場合は、はじめは設定金額を抑えてようすをみるのも良いでしょう。
■加入時期によっては受給時期が60歳以降
イデコの引き出しは原則60歳から可能ですが、60歳になっても引き出しできないことがあります。加入時期によって受給できる時期が変わってくるためです。60歳を迎えた時点でイデコの加入時期が10年を満たしていない場合は、加入時期に合わせて年齢が繰り上げられていきます。
8年以上10年未満の加入なら61歳、6年以上8年未満なら62歳、4年以上6年未満なら63歳、2年以上4年未満なら62歳、1カ月2年未満なら65歳が受給開始時期です。加入年数が少なくても、65歳であれば受け取ることができます。
■元本を下回る可能性もある
イデコは、預ければほぼ自動的にお金が増えていく定期預金などとは異なります。投資信託をメインにしたラインナップであるため、価格変動型を組み入れた場合、元本を下回る可能性もあります。
元本を下回るということは、拠出した額よりも価値が下がってしまうということです。難しいからとここで放置してしまうと、さらに価値が下がる可能性があります。本来、イデコはこのように状況が変わる都度、商品の選択が正しいか見直していかなければならないものです。自分で考えて運用することが求められます。
自分で選択が難しい場合、あるいは投資信託の価格の変動がよくわからない場合、銀行の窓口などを活用して相談してみるのもひとつの解決方法です。
■運用には手数料がかかる
投資信託の運用にはさまざまな手数料がかかります。たとえばファンドに支払う信託報酬、運用を委託するための手数料、受給のための事務手数料などです。投資信託で利益が出た分が、そのまま懐に入ってくるわけではありません。
なお、こうした運用にかかわる手数料は、どの投資信託を選択するかなどによって大きく変わってきます。ファンドマネージャーがポートフォリオを作成する、インデックス投資をするなど方法によって手間が変わってくるためです。
イデコの投資商品を選ぶ場合は、リスクなどを考慮しポートフォリオを確認することも大切ですが、どの手数料がどのくらいかかるかもしっかり確認しておきたいです。手数料次第では、利益が発生していてもプラスにならないことがあります。
まとめ
ここまでイデコについてお話ししてきましたが、イデコの魅力である非課税は大きなメリットになるものの、60歳まで引き出しできない、元本が減る可能性があるなどの注意点もあります。イデコが人気だから利用するのではなく、イデコがどういった商品なのかをしっかり理解してから活用するようにしましょう。場合によっては、イデコだけでなく、定期預金などのそのほかの金融商品も組み合わせていくと良いですね。