住宅の購入は一括ではなく、頭金を少し入れて、住宅ローンを組んで支払っていく選択をする人の方が多いでしょう。住宅ローンを組むには審査がありますが、そのほかにもローンを組む条件が提示されることがあります。住宅ローンの契約で借り入れ条件になることが多いのが、団体信用生命保険、通称団信といわれる保険です。

そもそも団体信用生命保険とは何か、なぜ住宅ローンの借り入れ条件になるのか、その性質と知っておきたい注意点をみていきましょう。

「団体信用生命保険とは?」

家の購入は人生の中でも大きな買い物です。いくら貯金をしているといっても、住宅購入のための多額の費用を用意できる人は少ないため、住宅ローンを組むケースが多いかと思います。また、住宅ローンを組む場合も短期間ではなく、35年、40年のように長期の契約になりがちです。

短期的な返済については特に問題ではありませんが、さすがに30年先、40年先になると何が起こるかわからないもの。そんなときに役立つのが団体信用生命保険です。基本的に、住宅ローンの借り入れ条件となることの多い団体信用生命保険ですが、実際どのような内容なのでしょうか?一般的な生命保険との違いも合わせて解説します。

■団体信用生命保険で保障されるものは?

団体信用生命保険は、生命保険という言葉がついているように、被保険者、つまり住宅ローンの契約者にもしものことがあった場合の住宅専用の生命保険です。基本的には、住宅ローン利用中に被保険者(住宅ローン契約者)が死亡または高度障害になった際に、住宅ローンの残高が保険によってカバーされる契約となります。

被保険者が死亡して住宅ローンの残高があった場合でも、団体信用生命保険に入っていれば保険から残高分が支払われるため、残された家族は住宅ローンの返済で困ることのないようになっています。団体信用生命保険があれば、住宅ローン返済のために購入したマイホームを売却する必要もありません。

多くの住宅ローンは、この団体信用生命保険への加入が条件となっていますが、加入しても損のない保険、むしろ万一のことを考えると加入していた方が良い生命保険だといえるでしょう。

なお、ご紹介したように住宅ローンを利用する人にメリットのある団体信用生命保険ですが、住宅ローンを展開する金融機関にもメリットがあります。通常住宅は、築年数などとともに価値が下がっていくもの。仮に負債者が返済のために売却したとしても、住宅ローンの残高分がすぐに回収できるとも限りません。もしものときでも住宅ローンの残高分が保険会社から支払われる金融機関にもメリットがあります。そのために、住宅ローンの加入条件にしている金融機関も多いわけです。

■一般の生命保険との違いは?

一般的な生命保険も、団体信用生命保険も、被保険者の死亡や高度障害が原因で保険金支払いの対象になるのは同じです。しかし、決定的に違う部分があります。それは、支払われる目的です。

一般的な生命保険は、残された家族の生活保障、または葬祭費用などとして支払われるのが一般的です。しかし団体信用生命保険の場合は、家族のためではなく、家族が住む自宅のための保険になります。

保険金が支払われるのも、一般的な生命保険は妻や子どもなど契約者が指定した受取人ですが、団体信用生命保険は住宅ローンの契約を結んだ金融機関になります。団体信用生命保険は家族を通すことなく金融機関に直接支払われるため、住宅ローン残高よりも余分にお金が手元に残ることはありません。

また、一般的な生命保険と団体信用生命保険は支払いについても異なります。まず一般的な生命保険は被保険者の年齢が高くなると比例して保険料が上がりますが、団体信用生命保険は年齢で変わることはありません。支払い人についても、一般的な生命保険は被保険者が支払うのに対して、団体信用保険は被保険者が返済する住宅ローンの金利から金融機関が代わりに支払うことが多いため、被保険者が別途負担するケースは少ないです。

「団体信用生命保険の種類」

団体信用生命保険とはどのようなものか解説してきましたが、団体信用生命保険の中にもいくつか種類があります。基本的に知っておきたいのは、通常の団体信用生命保険、三大疾病特約付きのもの、八大疾病特約付きのものです。

どの団体信用生命保険を選ぶかによって保障される範囲が異なるため、契約の前にしっかりと確認しておきたいところ。それぞれどのような内容が保障されるのか確認してみましょう。

■通常の団体信用生命保険

通常の団体信用生命保険で保険金がおりるのは、被保険者が死亡した場合、または高度障害になった場合です。死亡した場合については特に解説の必要もないかと思いますが、問題は高度障害になったときです。どこまでを高度障害の範囲とするかが難しい部分となります。

団体信用生命保険の高度障害の範囲は加入する保険会社によって解釈が少し異なる可能性もありますが、基本的には1人では生活が難しい、常に介助者が必要な状態を指すことが多いです。

たとえば、首から下が完全に麻ひを起こして回復の見込みがない場合、臓器や中枢神経系に大きな障害が残り介助者なしでは生活できない場合、両手とも手関節以上を失った場合などです。ほかにも、矯正視力0.02以下で回復の見込みがないもの、失語症や声帯の摘出で言語機能を失った場合も高度障害に含まれます。

一方で、高度障害と混同しやすいのが、体の片方が動かない片麻ひ、ペースメーカーの埋め込み、腎臓機能の低下による人工透析、視野が狭くなる視野狭さくなどです。こうした障害は体に不自由は残りますが、完全に介護が必要な状態とみなされないため、高度障害には該当しません。

■三大疾病特約付団体信用生命保険

通常の団体信用生命保険は、特に保険料の加算もなく利用できますが、保障される範囲が死亡または高度障害と狭いです。そこで考えたいのが、三大疾病特約付団体信用生命保険。日本の三大疾病である、がん、心筋梗塞、脳卒中についても保障が受けられる団体信用生命保険です。

三大疾病といったら、日本人の多くがかかるリスクのある病気ですから、特約を付けていれば多少の安心感があります。がんや心筋梗塞、脳卒中を原因とした死亡や高度障害でなく、病気の診断が確定した場合などに保障が受けられる点が大きいです。

特にがんについては診断の確定により保険金が支払われるケースが多いため、住宅ローンを気にせずがんの治療に専念することができます。心筋梗塞、脳卒中に関しては条件付きが一般的で、心筋梗塞なら一定期間働けない状況になること、脳卒中なら麻ひなど高度障害とまではいかない障害が一定期間残ることなどが条件となります。

それでも、一般的な団体信用生命保険と比べると三大疾病の診断がきっかけで保障が受けられる可能性があるため、不安要素を少しでも減らすことが可能です。ただし、一般的なものと比べると保障が手厚くなるため、住宅ローンの金利が0.25%程度上乗せされます。

■八大疾病特約付団体信用生命保険

八大疾病特約団体信用生命保険は、三大疾病であるがん、心筋梗塞、脳卒中のほか、五疾病の糖尿病、慢性腎不全、高血圧症、肝硬変、慢性膵炎についても保障する団体信用生命保険のことです。三大疾病の保障の条件は、基本的に三大疾病特約付団体信用生命保険と同じになります。

三大疾病特約付のものよりも病気の範囲が広くなり、保障を受けられる可能性が高くなるのが特徴です。なお、五疾病についての保障は、病気になった時点ではなく、病気により一定期間就業不能の状態が続くことが条件となります。就業不能期間については各保険によって異なりますが、1年を基準にしているところが多いです。

就業不能になってからすぐに保険金がおりない点が難点ではありますが、高度障害とまでは至らないものの八大疾病により当分仕事の復帰が難しくなった場合に活躍します。

なお、保険料に関しては、だいたい住宅ローンの金利に0.3%程度上乗せされるケースが一般的です。

「団体信用生命保険の注意点」

団体信用生命保険にはいくつか種類があって、保障にも条件があることを紹介しました。ほかにも団体信用生命保険への加入を考えるうえで、考えておきたいことがあります。

団体信用生命保険加入前の健康状態と、団体信用生命保険でカバーできない部分のリスクです。それぞれ、どういった部分が問題となって、どのように対策をとれば良いのか解説します。

■健康状態が悪くても加入はできる?

団体信用生命保険は、住宅専用とはいっても生命保険の一種です。そのため、一般的な生命保険と同様に健康状態の告知をしなくてはなりません。ただし、保障内容が限られてくることもあってか、一般的な生命保険と比べると告知が必要な項目は少なめです。

それでは健康状態が悪い場合でも加入はできるのかというと、必ずしも加入できるとは限りません。団体信用生命保険に加入できるかの判断は各保険会社に委ねられますので一概にはいえませんが、例えば持病があって明らかにリスクが高い場合などは加入できないことがあります。

団体信用生命保険に加入できないとすると、住宅ローンの契約も絶望的に思えます。ただし、住宅ローンすべてが団体信用生命保険を条件にしているわけではありません。団体信用生命保険を加入条件にしていない住宅ローンを契約すれば良いだけです。

死亡や高度障害など、万一のとき家族が住宅ローンを支払えなくなることが不安であれば、団体信用生命保険にこだわらず、住宅ローン分が補えるよう一般の生命保険の保障を見直せば、団体信用生命保険の代わりにできます。

■団体信用生命保険でカバーできないリスクは?

被保険者が死亡した場合や高度障害になった場合に住宅ローン残高の保障がある団体信用生命保険は家族の助けになりますが、団体信用生命保険ではカバーできない部分があります。

病気や事故などが原因で、被保険者がすぐに働ける状態でない場合です。確かに、三大疾病特約や五大疾病特約は、そうした被保険者が働けない状況になったときに特定の病気を理由に保障を受けることはできます。しかし、働けない期間が一定期間あることが条件です。五大疾病に至っては、だいたいが1年間の就労不能状態を条件としています。

実際に1年間働けない期間があったらどうなるでしょうか。夫婦どちらも働いていて片方が働けなくても問題ない家庭は限られてくるはずです。貯蓄があったとしても、1年以上働けないとなるとやがて貯金は底をつき、住宅ローンの支払いはおろか、日々の生活にも支障がではじめるでしょう。

団体信用生命保険は便利ですが、頼りすぎずに、もしものときのリスクをいかに抑えるかも考えるべきです。団体信用生命保険では対応できない就業不能状態をカバーするために、就業不能保険も合わせて検討しておくのも方法の1つではないでしょうか。

「もともと生命保険に加入している場合は?」

住宅ローンの保障に特化しているといっても、団体信用生命保険も生命保険の一種であることに違いありません。すでに生命保険に加入している場合は注意が必要です。

契約の内容にもよりますが、生命保険の保障と団体信用生命保険の保障とでは、内容がかぶる可能性もあります。団体信用生命保険と一般的な生命保険の関係と見直しについて考えてみましょう。

■保障が重なる場合は

家計を支えている人の生命保険の死亡保障の額は、普通残された家族が生活できるように考えて設定しているものです。生活費が基準となるため、死亡保障の額には、食費や水道光熱費、医療費、教育費、通信費などのほか、住宅費も入ってきます。

住宅ローンを契約する前であれば、住宅を購入する前の家賃分などが含まれているはずです。すでに契約している生命保険に家賃分が含まれている場合、団体信用生命保険で住宅ローン残高は保障されるため、内容が重なってしまうことになります。

残された家族が万一のときに受け取れる額が増えるとプラスに考えることもできますが、必要以上の保障は保険料の無駄です。すでに加入している生命保険のうち、必要のない家賃分も合わせて払い続けることによって、保険料の負担ものしかかってきます。住宅ローンによって月々の支払いも増える可能性があるので、なおさら生命保険の無駄は負担です。

契約によっては、そもそも家賃分を考慮していないケースもありますが、もし生命保険の死亡保障に家賃分を含めている場合は、家賃分を減額して必要な死亡保障を計算し直す必要があります。

■住宅ローンを組むときは保険の見直しタイミング

すでに加入している生命保険と団体信用生命保険では、保障部分が重なる可能性があるということを紹介しました。このように過剰に生命保険をかけているケースもありますが、保険料の安さばかりに目がいって生命保険で必要な保障ができていないケースも少なくありません。

団体信用生命保険では住宅ローン残高の保障はありますが、家族の生活の保障はありません。団体信用生命保険で住宅費はまかなわれても、日々の生活が苦しく、結局は実家に戻って家を売却しなければならない状況になるかもしれません。

実は住宅ローンを組むときは、生命保険の見直しを行う絶好のタイミングです。そもそも保障は十分か、あるいは保障が過剰でないか生命保険を見直してみましょう。生命保険の契約を結んだときとは家庭の状況が変わっている可能性もあるため、見直してみると意外に無駄が多かったり、保障が行き届いていなかったりするものです。

まとめ

住宅ローンの借り入れでは、団体信用生命保険の加入が条件になるケースも多いです。団体信用生命保険は、もしものとき住宅ローンの残高を保障してくれるものとして便利な保険ですが、カバーされない部分もあります。さらに、すでに加入している生命保険と保障が重なるケースも少なくありません。

住宅ローンを契約するときは、生命保険、そのほかの保険の契約も同時に見直すべき。団体信用生命保険と生命保険などとのバランスを考えることが大切です。