ご存じの通り、現在の公的年金制度は老後の生活を支えるためにあります。そんな公的年金制度ですが、転職や年金積立金の運用悪化などにより、思っていたよりも支給額が少なくなってしまう可能性があります。また、そもそも公的年金だけでは十分に生活できないことも考えられます。

公的年金への不安を補うために、私的年金の利用を考えておきましょう。中でも、個人型DCといわれる個人型の確定拠出年金は、老後資産を効率よく形成していきたい人にぴったりです。個人型DCの内容と、メリット・デメリットについて見ていきましょう。

「個人型確定拠出年金iDeCoとは?」

国民年金基金連合の調査」によると、5月時点で平成30年度の個人型DC(iDeCo)への新規加入者は68,000人を突破しています。

なお、平成30年5月時点での第1号被保険者(個人事業主やフリーランスなど)の加入者数は12万6千人、第2号被保険者(会社員など)の加入者数は約76万2千人、第3号被保険者(扶養に入っている会社員の妻など)の加入者数は約2万5千人で、計約91万4千人。iDeCoは注目度が上がってきている私的年金のひとつといえるでしょう。それではほかの私的年金と何が違うのか、iDeCoの特徴を見ていきましょう。

■月額5000円から誰でも始められる

iDeCoの特徴は、20歳以上60歳未満であれば基本的に誰でも加入できることです。2016年度までは企業型DCに加入することができない会社員、個人事業主などと加入対象者の範囲が決まっていましたが、2017年1月の法律改正により、企業DCなどのある会社員、公務員、専業主婦なども加入できるようになりました。

法改正以前は、個人事業主などが国民年金の支給額を補うためという側面がありましたが、加入しやすくなったことで、誰でも老後資金の形成をしやすくなりました。実際に第2号被保険者にあたる会社員や公務員の加入も増えてきています。

さらに、老後の資金形成が限られていた、第3号被保険者である配偶者などに扶養されている人も対象になりました。iDeCoの対象者拡大により、柔軟な老後の貯蓄が可能になったといえるでしょう。

■iDeCoは月額5000円から

iDeCoの加入者が増えているのは、気軽にスタートしやすいからです。掛金は月額5,000円からで、5,000円以降は1,000円刻みで掛金を設定することができます。たとえば毎月5,000円以上の貯蓄をしているなら貯蓄の一部をiDeCOに回すイメージなので、そこまで負担に感じません。仮に最低額の5,000円に設定したとしても、年間60,000円を積み立てていくことができます。

ただし、iDeCoは際限なく掛金を拠出できるわけでなく、属性によって拠出できる月の掛金が決まっているので注意しましょう。掛金が一番多く設定できるのは第一号被保険者にあたる個人事業主などで、国民年金基金と合わせて月68,000円まで掛金に設定できます。

公務員は月12,000円・専業主婦は月23,000円・第2号被保険者の会社員は月12,000~23,000円まで、設定することができます。会社員の掛金については、勤め先が企業型DCを導入しているかどうか、対象の会社員自身が企業型DCを利用しているかどうかで上限が変わります。

「iDeCoを利用するメリット」

iDeCoの大きな特徴は、誰でも気軽に資産運用によって老後資金の形成ができることです。月額5,000円と少額から始めやすいのも魅力でしょう。

さらに、スタートできる掛金の低さだけでなく、自分で運用して資産を増やしていける点もほかの私的年金とは異なります。資産運用といっても、積極的な投資信託だけでなく定期預金などもあるため、始めるハードルが低いのです。

そしてもうひとつiDeCoが選ばれる理由が、税制面でメリットがあるためです。続いて、知っておきたいiDeCoの税金の面でのポイントを3つご紹介します。

■掛金が全額所得控除され税金が安くなる

まず1つ目は、掛金すべてが所得控除されることです。所得税と住民税の両方から掛金分が所得控除として差し引かれ、税負担が軽くなります。

たとえば個人事業主の場合の月額の上限は68,000円です。仮に上限まで掛けていたとしたら、年間の掛金の合計は816,000円になりますが、iDeCoでは、816,000円すべてを所得控除の対象とすることができます。所得税は所得によって税率が変わってきますが、住民税は一律10%なので、81,600円住民税がお得になる計算です。

また、場合によっては税金の還付があり、浮いた分を貯金に回すこともできます。

老後のために貯金していたとしても、貯金した額が所得税や住民税から控除されることはありません。条件なしに老後資金のための掛金すべてが控除対象になるのはとてもお得なのではないでしょうか。

■運用中に得た利益は非課税

iDeCoの税金に関するメリットは、掛金だけではなく、運用中に得た利益にも適用されます。

iDeCoで取り扱っている定期預金や投資信託は、基本的に運用益に税金が課せられています。何気なく利用している定期預金の利息も実は、所得税15%・住民税5%・復興特別所得税0.315%、計20.315%の税金が差し引かれた後のものなのです。ですがiDeCoでは、この税金が差し引かれることはありません。

たとえば運用によって10万円の利益があったとして、通常は税金の20,315円が差し引かれた79,685円しか利益として得られませんが、iDeCOなら10万円がそのまま運用益として残ります。運用益が大きければ大きいほど、iDeCoの運用益非課税のメリットは大きくなるのです。

しかし、iDeCoは引き出すことが原則できないことに注意が必要です。そのため、運用益を再投資してさらに複利をねらう形になります。

■運用資産受取時にも節税

税金に関するiDeCoのメリットは、現役世代として掛金を払うときだけのものではありません。将来、運用した資産を受け取るときにもメリットがあります。

まずiDeCoで運用した資産は、一時金と年金で選択が可能です。一時金を選択した場合は退職所得控除、年金を選択した場合は公的年金等控除を受けることができます。

退職所得控除や公的年金等控除の対象となることで得られるメリットは、一定額まで税金がかからないということです。たとえば65歳以上の人が年金で支給を受ける場合、ほかの公的年金などと合わせて120万円まで非課税にすることができます。60歳以上65歳未満であれば、年間70万円まで非課税対象になります。

「iDeCo利用のデメリット」

ここまでiDeCoのメリットについてご紹介しました。税制面での優遇がほかの私的年金などと比べると手厚いため、かなりお得な年金制度といえます。そんなiDeCoですが、メリットばかりではありません。

たとえば、個人で資金を運用することによるリスクがあります。ただし、運用リスクについてはiDeCoに限らず、ほかの金融商品についても当てはまることでしょう。

運用リスクよりもさらに気を付けなければならないのが、自由にお金を引き出せないということです。

■60歳まで運用資産を引き出せない

iDeCoの大きなデメリットは、原則60歳まで掛金として拠出した運用資金を引き出せないことです。一部例外はあり、資産15,000円以下など脱退一時金を受け取れることもありますが、基本的に加入してもすぐにお金が引き出せない点に注意しましょう。急にお金が必要になったときに対処できないということもあります。急な出費に対処できるよう、別途貯蓄があれば良いですが、税金面でお得だからといってiDeCoに余剰金を全振りしてしまうと、何かあったときに自分の首を苦しめることになるでしょう。場合によっては、老後の資産形成どころか借金を作ってしまうことに繋がるかもしれません。

せっかくの税制面のメリットを最大限に活用したいという思いもあるかもしれませんが、iDeCoを利用する際はほかの貯蓄とのバランスも考えましょう。少なくとも日々の生活で必要になる予備のお金はiDeCoに回さず、余ったお金をiDeCoに回すべきだといえます。

まとめ

iDeCo(個人型DC)のメリットは、掛金・運用益・給付金の3つに関して手厚い税金の優遇が受けられることです。さらに個人事業主や会社員など問わず、誰でも月5,000円から始められるという手軽さも加入者数の増加の理由になっています。

一方デメリットもあり、原則60歳まで運用資産を引き出せないということが挙げられます。税金面での優遇にばかり目がいってしまい、掛金と生活費のバランスが悪くなると生活に支障がでる可能性があります。大切なのは、拠出できる掛金の比率をしっかり考えることです。iDeCoに関する不安は窓口相談などをうまく活用して解消していきましょう。