健康年齢が上がってきていることもあり、定年後に再就職する人も珍しくなくなってきました。とはいえ、高齢になってからもいつまでも働き続けられるわけではありません。体力的な問題などで、いつかは仕事をリタイアするときが来るでしょう。そんなリタイア後の収入源になるのが年金です。

ただ、年金は給与のように毎月働いた分はもらえません。受給額はこれまで年金に加入した分、納めた額に応じて決まります。「実際のところ、いくらもらえるのかな?」と金額が気になる人も少なくないでしょう。今回は、そんな年金受給額や計算方法について解説していきます。

年金はいくらもらえる?平均受給額は?

年金は実際いくらもらえるのか。もちろんこの先、経済などの影響もあり受給額が変動する可能性はありますが、実際に年金を受給している人の受給額は参考になります。まだまだ年金を受給する年齢から離れているならまだしも、10年先、15年先と受給が迫ってきているのであれば大きく変動する可能性は低いでしょう。

年金の受給額はどのようになっているのか、モデル世帯の場合、実際の年金受給の平均の場合とでみていきましょう。

モデル世帯の年金受給額は?

モデル世帯とは、夫が平均収入で40年間就労した厚生年金加入者で、妻が専業主婦である世帯のことです。2018年(平成30年度)のモデル世帯の平均標準月額はボーナスを含み420,800円。年収にすると513.6万円の世帯になります。

厚生労働省の資料 によると、67歳以下のモデル世帯の場合の厚生年金受給額は、老齢基礎年金を含め月額221,277円。内訳は、夫の老齢基礎年金64,941円、妻の老齢基礎年金64,941円、夫の厚生年金91,395円です。

会社員時代の給与がボーナス含み420,800円だとすると、単純に約21万円もの差が生まれます。実際には、会社員時代の給与から源泉所得税、健康保険、厚生年金、雇用保険などが差し引かれるためそこまでの差にはなりませんが、年金収入のみの場合、手取り収入として会社員時代より10万円程度は下がってしまうことを覚悟する必要があるでしょう。

なお、平成29年総務省の家計調査 によると、60~69歳の平均消費支出は290,084円、70歳以上は234,628円になるので、老後の平均消費支出をベースにみても、公的年金とは別に収入があった方が生活に余裕がもてそうです。

実際の年金受給額は?

モデル世帯の年金受給額を紹介しましたが、モデル世帯の受給額はあくまで平均給与をベースに40年間きっちり会社勤めした場合です。実際には勤続年数が40年にも満たない場合もありますし、平均給与に満たない場合もあるでしょう。そこで、もう1つ参考にできるのが実際の年金平均受給額です。

厚生労働省調査の「平成28年度 厚生年金保険・国民年金事業の概況 」によると、厚生年金受給者の平均は老齢基礎年金含め147,927円、老齢基礎年金のみの場合は55,464円でした。

モデル世帯に当てはめて、夫が会社員で妻がずっと専業主婦だったとすると、もらえる現金の額は203,391円になります。実際の年金受給の状況はモデル世帯よりも少なめです。

これらは、あくまで平均であるという点に注意してください。平均年収よりも給与額が少ない場合は年金受給額が下がりますし、反対に共働きで妻も会社員(第1号被保険者)として厚生年金を収めている場合は受給額が上がる可能性があります。これくらいもらえるかもしないという参考程度に確認しましょう。

将来受給できる年金額は?

モデル世帯の年金受給額と平均受給額を紹介してきましたが、どちらもあくまで40年間会社に勤務した場合を想定した金額です。また、厚生年金と老齢基礎年金のどちらも受け取れる65歳以上の年金受給額になります。(男性なら昭和36年4月1日生まれまで、女性なら昭和41年4月1日生まれまで65歳前に報酬比例分の受取あり)

実際には、働きはじめてから60歳(または65歳)の間に転職や介護などで会社員でない期間がある人もいるでしょう。このような場合、年金受給額にどのような影響があるのでしょうか。国民年金保険料を滞納した場合、また受給年齢が引き上げられた場合について考えてみます。

国民年金の保険料滞納の受給額への影響は?

20歳以上は年金に加入する義務があるため、会社員でなくなった場合もいずれかの年金に加入する必要があります。会社員の場合は基本的に厚生年金ですが、転職など一時的にでも会社員でなくなる場合は、国民年金への加入が必要です。

国民年金は厚生年金と違い、所得に応じてではなく一律になるため、所得がなくても原則国民年金の支払いが発生します。2018年の国民年金保険料は月額16,340円です。

しかし一時的に会社を離れて無収入になった場合は、国民年金が思うように支払えず滞納してしまうことも少なくありません。2018年の国民年金支給額は779,300円なので、480カ月(満期の40年)で割ると1カ月滞納するごとに1,623円支給額が減る計算です。

ただし、このように丸々1カ月差し引かれるのは、保険料の免除や納付猶予の手続きをしていなかった場合。納付猶予は年金額に反映されませんが、全額免除であれば半額、4分の3免除であれば8分の5、半額免除であれば8分の6、4分の1免除であれば8分の7まで年金額に反映させることができます。

2018年の年金支給額をもとに計算すると、全額免除であれば811円、4分の3免除であれば609円、半額免除であれば406円、4分の1免除であれば203円程度の減額です。支払いが難しい場合は免除等の手続きを受けた方がよいですね。

受給年齢引き上げの影響による支給額への影響は?

現実に受給年齢の引き上げは検討段階ですが、過去には受給年齢が60歳から65歳に引き上げられた経緯があります。今後支給開始の年齢がさらに引き上げられる可能性は十分に考えられるでしょう。

年齢引き上げによって直接的に年金の支給額に影響が及ぶ可能性は少ないですが、引き上げによって年金をもらえる期間が短くなる人が出てくるのは確かです。ただし健康年齢の伸びもあるので、必ずしも支給額に影響するとはいえないでしょう。老後の生活がどのくらい待っているかは未知数なので、影響を受けるかどうかは人によるとしかいえません。

なお、一律で受給年齢が引き上げられるかはまだ分かりませんが、現在の制度でも受給者本人が希望すれば繰り下げて受給することはできます。66歳以後の繰り下げが可能で、繰り下げた時期に応じて年金への加算が受けられるのがポイントです。繰り下げた方がよいかは状況にもよりますが、繰り下げることによって65歳時点の年金をベースに毎月の受取り額を増やすことができます。65歳を超えてもまだまだ現役で働ける、年金は必要ないという場合は繰り下げを利用してみるのも方法の1つです。

実際の年金受取り額は?

モデル世帯の年金受給額、平均受給額、年金が減額される場合や増える場合を解説してきましたが、どこか自分のケースとはかけ離れていると感じる人もいるかもしれません。共働き世帯、会社員の世帯、自営業の世帯、無職期間が長かった人などさまざまなケースがあるので、平均と比較するのは難しい場合もあるでしょう。平均的なモデルの年金受給額より、現実的に年金がいくらもらえるかを知りたいと思います。自分の将来の受給額を知るために、計算式を使ったより詳しい計算方法を確認してみましょう。

国民年金と厚生年金

将来支給される年金を計算する前に知っておきたいのが、国民年金と厚生年金です。会社員の場合、年金が2段階になっており、基礎年金にあたる国民年金、厚生年金に加入することになります。

国民年金は、原則20歳上60歳未満の日本に住むすべての人に加入義務がある年金のこと。会社員の場合、国民年金の第2号被保険者に該当します。国民年金分は厚生年金保険料に含まれているので、別途国民年金として支払う必要はありません。

なお、国民年金については、受給資格として免除を含め25年間保険料を払い込んでいる必要がありました。2017年8月1日からは25年が10年に短縮されたのでより受給できる範囲が広くなっています。

一方の厚生年金は会社員や公務員が加入するもの。公務員に関しては共済年金でしたが、厚生年金に統一化されています。厚生年金は、加入期間だけでなく給与額も年金に反映される点が国民年金とは異なります。会社が半額負担してくれるのも厚生年金のポイントです。支払いベースでみると、国民年金加入のみのフリーランスやアルバイトなどの方が個人の年金保険料の負担は大きくなります。

厚生年金の計算方法

国民年金部分は受給額が一律なので計算しやすいです。一方の、厚生年金の受給額は人によって違うため、一見難しく感じるかもしれません。日本年金機構に掲載されている実際の計算のための式も少し分かりにくい印象がありますね。

・厚生年金計算のための式

(平均標準報酬月額×生年月日に応じた率×平成15年3月までの被保険者月数)+(平均標準報酬月額×生年月日に応じた率×平成15年3月以降の被保険者月数)

計算式は少し分かりにくいですが、生年月日に応じた率は、1946年(昭和21年)4月2日以降に生まれた人、2018年71歳以下の人は一律0.005481なので以下のようにもっとシンプルに計算できます。

平均月給×加入月数×0.005481

ちなみに平均月給は、ボーナスを含めた生涯の月給の平均のことで、現在の平均月給ではありません。20代で平均月給20万円、40代で40万円、定年間際の60歳で45万円として考えたとき、20~40歳20万円、40~55歳40万円、55~60歳を45万円で計算して平均すると306,250円になります。あくまで予想なので、ある程度の平均値で計算しましょう。

実際の年金受給額は?

それでは実際の年金受給額はどのように計算すればよいのでしょうか。年金受給額を計算するうえで重要なのが、国民年金(基礎年金)、厚生年金、そして加給年金です。加給年金は、65歳未満の配偶者がいるとき、18歳未満の子がいるときに加算されます。まずは、加給年金がなかったものとして計算してみましょう。

(例)20歳から60歳まで40年会社に勤務。平均月給35万円(年収420万円)の場合

・国民年金(基礎年金)分

2018年の満額(40年加入)支給は779,300円

・厚生年金報酬比例分

35万円×480カ月×0.005481=920,808円

779,300円+920,808円=1,700,108円

月々 約141,676円

単身世帯の場合、年金受給額は約14万円です。専業主婦の妻がいる場合は、基礎年金部分が加算されるため、年額2,479,408円、月約20.6万円になります。

なお、妻が65歳未満の場合は加給年金が加算されます。定額224,300円に特別加算165,500円(生年月日1943年以降)があるので、加給年金の合計は389,800円です。加給年金の加算を含めると年額2,869,208円になるため、月23.9万円受給できる計算になります。分解して考えれば、将来の年金受給額も割と簡単に計算できますね。

平均月給など自身の状況に当てはめて計算することによって、より現実的な値を出すことができます。受給額の平均値やモデル世帯と状況が大きく変わる場合は、ぜひ計算式を活用してより将来の受給額に近い金額を出してみましょう。

まとめ

年金がいくらもらえるか知ることは、将来の生活を考えるうえで大切です。もし年金だけで生活を維持できない場合は、年金以外の収入や貯蓄を用意しておかなくはなりません。ご紹介したように年金の計算はそこまで難しくないので、自分の状態に当てはめて、ある程度近い額を出してみましょう。

なお、実際計算してみると、月給が平均よりも大きく下回ったり、あるいは上回ったりしない限り平均に近い数値になることが分かります。平均的な家庭に近い場合は、平均受給額をそのまま当てはめて老後設計をはじめても問題ありません。年金受給額を知って、老後の生活を考えていきましょう。