自分にもしものことがあったとき、残される家族のために生命保険に加入する人は少なくありません。そんな生命保険に加入する際に気になるのが、掛け捨てにするか、積立型にするかです。金額的な面で見ると、同じ条件でも貯蓄性のない掛け捨ての方が支払う額が抑えられます。

支払いの負担は減りますが、代わりに満期になったときに受け取れる満期金はありません。掛け捨てと積立型ではどちらがお得なのでしょうか?今回は、主に掛け捨ての生命保険について詳しくお話しします。

掛け捨ての生命保険の特徴は?

生命保険は、積立型と掛け捨て型に大きく分けられます。掛け捨ての生命保険は、積立型とは違い死亡時補償に重点を置いたタイプ。積立型のように貯蓄性がないため満期などでお金を受け取ることはできません。

また、生命保険の商品によっては解約時に返戻金が発生することもありますが、返戻金の額はそれほど期待できず、解約してもほとんど戻ってこないのが掛け捨てタイプの生命保険です。掛け捨てタイプの生命保険の特徴について紹介します。

■保険料が割安

掛け捨ての生命保険の大きな魅力は、保険料が割安なことです。被保険者の年齢や健康状態などにもよりますが、貯蓄型の生命保険を契約しようとすると、どうしても毎月数万円の掛け金が発生してしまいます。

将来戻ってくる分の金額を含めての設定になるため、保険料が高くなるのは仕方のないことですが、家計の状況、家族の状況によっては貯蓄型の生命保険をかけることが厳しいことも少なくありません。特に子育て世代では、子どもの教育費や養育費もかかってくるので、毎月数万円出ていくのは大きな痛手ではないでしょうか。

しかも、月々数万円をかけても死亡時に保障される額はそこまで大きくありません。貯蓄型で死亡時の保障額を上げようとするともっと高額な保険料が発生することになります。

一方、掛け捨て型の生命保険は将来戻ってくるお金がない分、同じ死亡保障の内容の貯蓄型の生命保険よりも支払額がぐっと抑えられるのが特徴です。被保険者の年齢などにもよりますが、毎月数千円から死亡保障を付けることができます。さらに、もともとの金額設定が低いことから、高額な死亡保障に設定しても貯蓄型ほど金額が膨らむことはありません。毎月少ない掛け金でもしっかり死亡保障を付けられるのが魅力です。

■更新時に保険料がアップ

掛け捨てタイプの生命保険の魅力は、割安な保険料で、貯蓄型ではかなわない高額な死亡保障を付けられることですが、契約期間を誤ると魅力が半減してしまいます。

たとえば10年タイプ、15年タイプなどの掛け捨て型生命保険がありますが、こうしたタイプは更新のタイミングで保険料がアップします。更新時に新たに契約が結ばれるため、更新時の年齢で保険料が決まるのです。

年齢が上がるにつれて、病気など死亡のリスクが上がるため、生命保険の保険料は年齢にともない上がるように設定されています。契約期間が終了するのが30代、40代であればまだいいですが、契約の更新時期が50代、60代になると、保険料負担は一気に重くなってしまいます。

死亡保障の内容によっては、毎月の支払額が1万円を超えてくることも少なくありません。こうなると数千円から契約できた掛け捨て生命保険の魅力は減ってしまいます。掛け捨て生命保険の特徴を生かすには、契約期間を長めに設定した方がお得です。

■掛け捨ての生命保険の種類

掛け捨て生命保険の死亡時保障の支払いには種類があり、定期保険と収入保障保険に分けられます。このうち定期保険は、死亡時保障の金額が契約満了までずっと変わらないタイプです。たとえば掛け捨て生命保険を15年、1,000万円で契約したとして、契約期間中ならどのタイミングで死亡しても1,000万円が死亡保険金として遺族に支払われます。

死亡保険金の額が一定なので、万が一のことがあったとき確実に入ってくる金額がわかっているという安心感があります。将来の計画を立てやすいタイプです。

一方、収入保障保険は、定期保険とは異なり、一括ではなく死亡時から、遺族が一定の額を給料のようにして受け取るタイプのものです。たとえば15年契約の生命保険で、収入保障を毎月10万円と設定した場合、5年後に被保険者が亡くなったら合計で1,200万円の生命保険が遺族に支払われることになりますが、被保険者が契約から10年後に亡くなれば遺族に支払われる保険金は合計600万円に減ります。

毎月一定の額が支払われる安心感もありますし、一括で受け取ることも可能ですが、契約から時間が経過するごとに受け取れる保険金の額が減ってしまうのが特徴です。その代わり、定期保険と比べて、収入保障保険の掛け捨て生命保険は保険料が割安になっています。

掛け捨ての意味とは?

ここまで掛け捨て生命保険のメリット・デメリットを含めた特徴を紹介してきましたが、そもそも掛け捨てとはどういった意味なのでしょうか?かけたっきりの保険と聞くとマイナスなイメージがあるかもしれませんが、実際のところどうなのか、掛け捨て生命保険の本来の性質についてみていきましょう。

■満期や解約でもお金は戻ってこない

保険の契約が終了する日のことを満期といいますが、貯蓄型が満期到来で満期金が支払われるのに対して、掛け捨て生命保険はなにごともなかったように満期が過ぎていきます。掛け捨てタイプは、基本的にこれまでに払い込んだ保険料が戻ってくることはありません。貯蓄型のようにちょっとしたお楽しみはないのです。

また、途中で解約した場合も掛け捨てタイプでお金が戻ってくることはほとんどありません。解約返戻金ありの掛け捨て生命保険があっても戻ってくる額はわずかです。貯蓄タイプの生命保険が、契約期間に応じて払込額の50%、70%などと戻ってくるお金がある一方で、掛け捨て生命保険は解約すると、お金が戻ってこないだけでなく、死亡保障の権利も同時に失ってしまいます。解約すると、これまで払い込んできた保険料分がまったくの無駄になってしまうのです。

貯蓄型生命保険が、死亡時の保障だけでなく貯蓄的な意味を持つのに対して、掛け捨て生命保険が死亡時の保障のみに特化できるのも、満期金や解約金がないことが理由です。

■お金を捨てているわけではない

掛け捨てと聞くと、どうしてもマイナスなイメージが払しょくできないかもしれませんが、別にお金を捨てているわけではありません。先にお話ししたように、満期金や解約返戻金がないだけのことなのです。生命保険の要である、死亡保障は掛け捨て生命保険でしっかり補えます。

でも、もし契約中にもしものことが発生しなかったら損をするだけなのではと考えてしまうものですよね。それでは、生命保険ではなく、自動車保険や海外旅行保険をイメージしてみてください。契約が終了してお金が戻ってくることがあるでしょうか。おそらく、ほとんどの自動車保険、海外旅行保険で掛け金が戻ってくることはないかと思います。

そもそも、保険は保険加入者に保険金を支払わなければならない事象が発生したらという相互扶助、いわば助け合いの精神によって成り立つものです。加入者から保険料としてお金を集めることで、加入者の誰かに保険金が発生したとき高額の保障を実現しています。

保険の成り立ちを考えると、掛け捨て生命保険がもったいない、損だという考えが間違いなのだとわかります。そもそも貯蓄型の保険が特殊なのであって、貯蓄分を余分に支払っているだけなのです。

掛け捨てと積立の違いは?

ここまで、掛け捨て生命保険とは何か、どのような特徴があるのかをお話ししてきました。掛け捨てだから損だというイメージも少しは払しょくされたかと思います。

本題に戻りますが、ここで疑問なのが掛け捨て生命保険はお得なのかどうかということです。掛け捨て型が良いのか、あるいは積立型が良いのか比較するには、積立型についても理解する必要があります。積立型の生命保険はどのようなものなのか、掛け捨て型との違いと使い分け方についてお話しします。

■なぜ2種類の保険があるのか

生命保険は、掛け捨て型と積立型に分けられますが、そもそもなぜ2種類も保険を作る必要があったのでしょうか。生命保険に2つの種類がある理由について、積立型の生命保険をベースに考えてみましょう。

積立型の生命保険は、掛け捨て型と比べると高額な保険料が設定されていますが、実は大部分を占めているのは貯蓄分です。そのため、積立型生命保険で支払う保険料全てが死亡保障金の積立として充てられるわけではありません。支払う保険料が多くても、保証金に充てられる金額は少ないため、死亡保障金の範囲がどうしても限られてしまいます。積立型の生命保険が、300万円、500万円、1,000万円などと、保険料に対して死亡保障の額が低いのはこのためです。

仮に、貯蓄型生命保険で遺族が生活に困らないだけの死亡保障を付けるとなるとかなり高額な支払いになってしまいます。掛け捨て生命保険は、そんな積立型生命保険でカバーできない死亡保障の額を補充するためにあるものです。掛け捨て生命保険は貯蓄の部分を省いた、純粋な死亡保障部分の支払いになるため、貯蓄型の生命保険と同じくらいの金額であれば、より高額の死亡保障を付けることができます。掛け捨て生命保険なら、数千万円から1億円ほどの死亡保障を付けることも可能です。

■積立型の特徴は?

積立型の生命保険の大きな特徴は、死亡保障をかけながら、貯蓄もできることです。たとえば、毎月支払いにしている場合、生命保険を解約しない限り、毎月決められた額が口座から確実に引き落とされていきます。おそらくほとんどの人は、口座から引き落とされるので、生命保険料支払いの分だけでも用意しておかなくてはという心理が働くでしょう。

貯金だとどうしても引き出しやすい環境でお金が貯まりにくくなってしまいますが、積立型の生命保険だとほぼ強制的に保険料が差し引かれるので、意識しなくても貯蓄が増やせます。貯金をしようと思ってもなかなか思うように貯まらない人は、こうした積立型の生命保険を利用するのも方法のひとつです。

なお、積立型の生命保険は終身タイプのものも多く、亡くなるその日まで保険をかけることができます。死亡保障自体は掛け捨てほどではありませんが、終身保険であれば確実に死亡保障を受けることが可能です。遺族の生活の保障とまではいかないまでも、残された遺族が遺品の整理費用や葬儀費用に充てられる分は用意できます。積立型はどちらかというと、遺族の生活保障というよりは、死亡保障金が少ない分、自身の身の回りの整理や葬儀費などとして考えた方が良いです。

■掛け捨て型と積立型を組み合わせた保険もある

積立型と掛け捨て型では死亡保障金の額、保険料、さらに満期金や解約返戻金の扱いも異なるため、どちらが良いかは難しいところです。仮に両方のメリットを得るためにどちらも契約しようとすると、その分保険料の負担は大きくなってしまいます。

そこで考えたいのが、掛け捨て型と積立型の2つを組み合わせた保険です。生命保険には、両方の性質を持った定期付終身保険もあります。定期付終身保険とは、終身保険として生涯にかけて死亡保障金をカバーしつつ、掛け捨て生命保険の特徴でもある定期保険によって一定の期間だけ死亡保障を厚くするというものです。

積立型の生命保険のように、満期金や解約返戻金が発生するわけではないため、どちらかというと掛け捨て生命保険よりですが、一部が利用できます。定期保険に充てられる部分が多く、終身保険分は少なめではありますが、家族の収入保障、終身保険によって葬儀や遺品などの整理費用とバランスよく保障を受けることが可能です。

■目的に合わせて使い分けることが必要

掛け捨て生命保険がお得か、あるいは積立型の生命保険がお得かは、個人のライフスタイルや生活によって変わります。たとえば、家族がいるケースでは掛け捨て生命保険による高額の死亡保障はあった方が安心ですが、独身で数千万円単位の掛け捨て生命保険を契約してもあまり意味がありません。養っている家族がいるなら別ですが、特に扶養している家族がいない場合は、高額な生命保険がかえって税金の対象になるなどデメリットもあります。

まずは、何を目的に生命保険を契約するのか目的を明確にすることが大切です。たとえば、仮に自分が死亡したときの家族への保障を大きくしたいなら掛け捨て生命保険の選択が適切ですし、自分の葬儀などの費用だけで良いのなら貯蓄型生命保険の方が適切です。終身保険、定期保険、どちらも死亡保障を付けたいなら、定期付終身保険を選択する方法もあるでしょう。

いずれにしても何のために生命保険を利用するのかを考えて、自分に合った生命保険のプランを選ぶこと、あるいは使い分けることが大切です。掛け捨て生命保険の方がいい、積立型の生命保険の方がいいと紹介されることもあるかもしれませんが、おすすめされるがままでなく、自分が一番に重視したいポイントで分けて生命保険を契約するようにしましょう。

掛け捨ての保険がおすすめのケース

ここまで掛け捨ての生命保険はどういった保険商品なのか、積立型生命保険との違いは何かをお話ししてきました。掛け捨てタイプの保険では生命保険がよく知られてはいますが、ほかにも医療保険の掛け捨てタイプもあります。

どういったケースで掛け捨てタイプの保険を活用するのがおすすめなのでしょうか。掛け捨て型生命保険と掛け捨て型医療保険、掛け捨てタイプを選んだ方が良い3つのケースを紹介します。

■子育てファミリーの世帯主の死亡リスクに備える

掛け捨ての生命保険がおすすめのケースは、子育て世帯で家計を支えている世帯主に生命保険をかける場合です。世帯主が主な収入を形成している場合、不慮の事故などで世帯主が死亡したら、残された家族の生活が立ち行かなくなってしまいます。

共働きだから大丈夫という家庭でも、世帯主が死亡することで、仕事と家事、育児の負担が一気に押し寄せるために、思うように収入が得られないかもしれません。世帯主が死亡したときのことを考えると、生活を賄えるほどの保険金が用意できる掛け捨てタイプの生命保険が合っています。仮に世帯主が30歳だとして、5,000万円の死亡保障を付けた場合でも、掛け捨てタイプなら月々の支払い1万円程度で契約が可能です。

もし積立型の終身保険で死亡保障5,000万円を付けたとすると、月々の保険料の額は約9万円に跳ね上がってしまいます。しかも終身保険の場合は世帯主が死亡するまで払い続ける必要があるため、家計を大きく圧迫するでしょう。お得にかつ、家族の生活の保障を考えるのであれば掛け捨ての生命保険を選択するべきです。なお、仮に死亡保障5,000万円ということで話をすすめましたが、子どもがある程度大きければ死亡保障もそこまで用意する必要はありません。

■病気やケガの医療費に備える

ここまで掛け捨てタイプの生命保険の活用について紹介してきましたが、掛け捨ての保険には医療保険タイプのものもあります。医療保険には積立タイプがありますが、人気なのは掛け捨てタイプ。医療保険は、生命保険と違って生涯入り続ける人の多い保険で、生命保険のような満期金や解約返戻金はよっぽどのことがない限り心配する必要がありません。

それよりは、気軽に加入できて、月々の掛け金も安い掛け捨てタイプの方が利便性は高いです。積立タイプのものよりも、お得に保障が受けられる掛け捨てタイプがおすすめです。

なお、医療保険に関しては必要ないのではという意見もあるかもしれません。高額医療費などの制度もあるため、先進医療など特別な治療をしない限りは月々の医療費の負担額は抑えることができます。しかし、病気やケガで長期の入院が必要となった場合はどうでしょうか。突然収入が断たれて、傷病手当により給付を受けられたとしても、働いているときのように満額がもらえるわけではありません。収入が減った状態で治療費を支払っていくのには限界があります。

突然のケガや病気はいつやってくるとも限りません。医療保険は、そうした収入や支出のバランスを考えると加入しておくべきです。できるだけお得に、かつ月々の不要な負担を減らすためにも掛け捨てタイプで考えてみましょう。

■がんの治療費に備える

医療保険(医療保障)の中には、がん治療費に特化した掛け捨てタイプのがん保険もあります。多くは、医療保険と切り分けられて独立で販売されているケースになりますが、がん保険も掛け捨てタイプで契約した方がおすすめです。

理由は、医療保険同様に満期金や解約返戻金などを考える必要がないためです。今や日本人の2人に1人はがんにかかるともいわれています。特に年齢と共にがんにかかる可能性は高くなるため、老年になってあえてがん保険を抜く選択肢は考えにくいです。それならば、若いうちから加入して、保険料の安い掛け捨てタイプがお得だといえます。

さらにがん保険を掛け捨てタイプにすれば、ほかの医療保険や生命保険の負担が重くなったとしても、最小限の負担で押さえることができます。さまざまなリスクに対応したいと考えるなら、うまく掛け捨てタイプの保険を活用して、生命保険料とのバランスを取りましょう。

まとめ

生命保険の掛け捨てタイプがお得になるかどうか、また自身のライフスタイルに合っているかどうかは、人によって違います。ひとついえることは、掛け捨てタイプの生命保険は、残された遺族の生活保障については、積立よりも手厚い保障を受けられるということです。

現役で子育て中の世帯であれば、世帯主に掛け捨てタイプの生命保険をかけるのがおすすめです。そのほか、扶養している家族など手厚い死亡保障が欲しいときは状況に合わせて掛け捨てタイプの生命保険を取り入れてみましょう。