突然ですが、あなたが将来定年まで働いたとして、退職金がいくら支払われるか知っていますか。「老後は退職金があるから大丈夫」と漠然と考えてはいないでしょうか。十分な退職金があれば老後の暮らしも安泰ですが、実は退職金がない会社も増えています。

まだ先のことだから大丈夫と考えずに、まずは勤めている企業に退職金制度はあるかどうかを確認してみましょう。退職金がない場合、または十分でない場合は老後のために何ができるか考えることが大切です。退職金がないときの、老後設計について考えてみましょう。

退職金なしの会社が増えている!

近年、退職金なしの会社が増えているといいます。さらに年金の支給額も年々減少傾向にあります。現状の生活に不満はなくても、老後に貰えるお金が減ると、「将来の生活は大丈夫だろうか」と少なからず不安を覚える人もいるのではないでしょうか。

今回は、老後に貰えるお金、老後準備金のうち退職金について、支給の実態と退職金制度について解説していきます。

退職金がある会社の割合は?

厚生労働省の「平成25年就労条件総合調査 」のうち、5年ごとに調査がある「退職給付(一時金・年金)の支給実態」によると、従業員30人以上の会社で退職金があったのは75.5%。退職金がない会社は4分の1に上りました。

前回「平成20年就労条件総合調査 」のときには83.9%だったので、5年間で8.4%も減少していることがわかります。このように、全体的に退職金なしの会社が増えているのが現状なのです。

ちなみに、厚生労働省の調査を受けたのは従業員30人以上の会社。従業員29人以下の会社は対象外なので、従業員が少ない中小企業を含めると退職金がない会社はもっと多いと考えられます。今や退職金がない会社は珍しくないのです。今後もこのような会社は増えるものと見込まれます。

また、ご紹介した数値は全体的な割合ですが、業種や職種で見ると退職金の有無は偏ってきます。もともと退職金がある方が珍しい業界の人もいるかもしれませんね。

さらに、今現在退職金があるからといって安心もできません。現在退職金がある会社に勤めていても、いずれ退職金がない会社に転職する可能性、倒産や会社の経営悪化で退職金がカットされる可能性も考えられます。「退職金は貰えるものだ」という常識はなくしてしまった方が、老後設計もより柔軟に組めるでしょう。

退職金制度の仕組みは?

退職金制度は、高度経済成長期やバブル期など売り手市場(求職者優位)だったときの福利厚生のなごりです。もともとは企業が人材を確保するため、各企業がそれぞれに設けたのが始まりです。日本の制度的に必ず退職金制度を取り入れていないといけないという訳ではありません。

また「退職金あり」と聞くと、退職金がない会社より優遇されていて、ボーナスをもらえるかのように感じることもあるかもしれません。しかし、退職金はもともと給与に充てられるはずだった金額の一部を積み立てて、退職時に会社が支給するものなので、退職や定年によって一括で受け取る給与と考えるのが妥当です。そのため、「退職金なし=よくない会社」とはいえないのです。

退職金がない場合は、毎月の給与から退職金として積み立てる分が天引きされないことで、それだけ今現在の生活に余裕ができ、若いうちから積極的な資産運用などに目を向けることだってできます。「退職金あり」と聞くと魅力的に感じるものですが、退職金がないことによるメリットもあるのです。

ただし退職金がないということは、定年退職したときの会社からの金額的なサポートがなくなってしまうということです。何も対策をしないでおくと、老後の生活は苦しくなってしまいます。

老後の生活にかかる費用は?

老後の生活にはお金がかかります。基礎年金(国民年金)の他、会社員であればさらに厚生年金が老後の収入源になりますが、年金だけでは生活費をまかなえない可能性も十分にあるでしょう。

実際、厚生労働省の「平成28年度 厚生年金保険・国民年金事業の概況 」によると、第1号被保険者(会社員)の老齢年金の受給額は平均145,638円でした。退職金なしの場合に生活がどのような状況になるか、老後に必要な費用を絡めて考えてみましょう。

老後に必要な生活費は?

老後設計といっても、老後どのくらいの生活費がかかるのかイメージしづらい部分もあるかと思います。以下は、総務省の家計調査報告による月単位の老後の生活費の平均値です。

※平成29年家計調査報告(総務省)より:「家計調査 / 家計収支編 単身世帯 詳細結果表」「世帯属性別の家計収支(二人以上の世帯)

持家の人が増えること、子どもが独立する人も多いことから、住居費と教育費は抑えめです。単身世帯だと毎月約15万円、夫婦だと約28万円の生活費がかかる計算になります。あくまでも平均値ですが、実際に年金収入などの老後の収入でまかなえるかというと、心もとない金額といえますね。

退職金があればそれを老後の生活費に回すことができますが、退職金がないとさらに状況は厳しくなります。

年齢を重ねると医療費も増える

ここまで老後の生活費について紹介してきましたが、老後の生活費が平均程度に抑えられるとは限りません。たとえば年齢を重ねることで増える費用もあります。ずばり、医療費です。

74歳までの医療費の自己負担割合は3割。75歳以上(2018年6月時点)は後期高齢者医療保険制度によって1割の自己負担が必要です。日ごろから頻繁に病院を利用している人にとっては、75歳以上になるとそれまでよりずいぶん負担が軽減されるので、メリットすら感じるかもしれません。

ただし、ずっと同じ状況は続きません。年齢を重ねることで病気やケガのリスクが高まることから、ますます医療機関への受診が増えて医療費がかさむ可能性が考えられるためです。退職金があれば一部を将来の医療費のためにとっておくことができますが、退職金がないと老後の医療費として使えるお金を別に用意しておく必要があります。

退職金なしの場合準備しておきたいこと

退職金がない会社が悪い訳ではありませんが、老後の生活費や医療費を考えると退職金なしでは厳しいこともあります。だからといって、退職金は強制されている制度ではないので、無理に会社へ支給や増額をお願いすることもできません。先に紹介したように、退職金は給与の一部なので、そもそも毎月支払われている給与の中に退職金となるお金は含まれているはずです。

退職金がない場合は、退職金に充てられていたはずの給与の一部をどうやって使っていくかが重要です。自分でお金を管理するときはつい誘惑に駆られて使ってしまいたくなることがありますが、ここが腕の見せ所。老後の資金作りの前にしておくべき準備を紹介します。

借金は早めに返済する

退職金がない場合、老後の生活を安定して送れるように資金作りをしておく必要があります。ところが、マイナスの財産があると準備が滞ってしまいます。資金を作ることも大切ですが、まずはマイナス部分をクリアにすることが先決です。

カードローンなどの借金はもちろん、住宅ローンやカーローンなどの大きな買い物で契約したローンも“借金”です。支払い期間が決まっているからと支払いを先延ばししないようにしましょう。

繰り上げ返済などを利用してできるだけ早く返済することによって、より若いうちに返済が完了し、老後にお金が不足するリスクを減らすことができます。また、契約内容によっては繰り上げ返済を利用することで、利息を浮かせることも可能です。

退職金に頼れないからこそ、マイナスをなくして財産をプラスにできるような基盤作りを始めましょう。金銭的なリスクはもちろん、「借金を払わなければ」という圧迫感も消えるので心も軽くなるはずです。

資産運用計画を早めに立てておく

「まだ若いから大丈夫」という考えは、退職金がない会社に勤めている場合通用しないかもしれません。老後資金の準備を自発的にしないと、老後の生活に余裕がなくなるどころか、生活自体が立ち行かなくなる可能性もあるためです。

そんな人こそ考えておきたいのが、老後のための資産運用計画。早めに計画を立てておくことで、資金作りにも余裕が生まれます。たとえば40歳から資金運用計画を立てたとします。60歳で退職を迎える場合、働けるのは20年。老後資金として2,000万円を貯めるには、毎年100万円、月約83,000円(利息による複利などを考えない場合)を積み立てていく必要があります。

しかし、30歳から準備をすれば毎年必要な額は約67万円、月56,000円程度に抑えることが可能です。生活に余裕が生まれますし、お金に余裕ができたら貯金や資産運用に回すことだってできます。資産運用計画を早めに立てて損することはありません。退職金がないからこそ、計画的に資金作りをすることが大切です。

老後に向けた資金の作り方

資産運用計画の必要性を紹介しましたが、ひとくちに資産運用といってもさまざまな種類があります。真っ先に思いつくのが、銀行の普通預金や定期預金などかもしれませんね。

もちろん定期預金などリスクの低い資産運用に絞るのも1つの方法です。しかしデメリットもあります。預金ではない資産運用も考えてみる、資産運用の方法をいくつか組み合わせてみるのも老後の資金作りをするなら考えていきたいですね。今回は、資金作りのベースとなる、貯蓄、個人年金、投資の3つの資金作りの方法を紹介していきます。

貯蓄

貯蓄は金融資産全般のことを指します。貯蓄のうち、預貯金は銀行などの金融機関で口座を開設して運用するスタイル。普通預金をはじめ、定期預金や定額預金などの種類があります。自宅に金品を保管することも貯蓄といえるでしょう。ただし、高額な資金を自宅で保管するのは盗難のリスクもあるため、現実的とはいえません。

そこで、貯蓄の現実的な方法としてまずイメージするのが、先に紹介した預貯金ではないでしょうか。普通預金であれば利用している人も多いでしょう。預貯金に共通するメリットは元本割れがしないこと、つまり預金または貯金した額より減らないということ。他の資産運用方法だと元本割れするリスクがあるため、これは大きなメリットといえます。

ただし、金利が低く資産を増やすのには不向きです。バブル期など景気が好調であれば金利も上昇して利益を得やすくなりますが、不況の時代では高額な金利は見込めません。2018年6月時点では、0.001%の金利も珍しくないのが現状です。仮に100万円を預けても、金利0.001%なら1年間で10円(税引き後9円)にしかなりません。

個人年金

国民年金や厚生年金は公的年金です。公的年金は収めた額などに応じて老後支給されますが、先に説明したように生活するためには十分でないこともあります。個人年金は、そんな公的年金を補うよう、老後に貰えるお金を個人で形成することです。一般的に個人年金保険のことを指します。

メリットは、保険商品としての保証を受けながら、将来の資産作りができること。さらに個人年金の払込期間を10年以上にすれば、個人年金保険料控除という所得控除を受けることができます。税金の優遇を利用して、所得税や住民税の支払いを下げられるのもポイントです。

一方でデメリットは、途中で解約することによって元本割れが発生してしまうことです。途中解約は「払込保険料の〇〇%」というように決まっていて、契約から解約までの期間が短いほど払い戻される額は少なくなってしまいます。つまり、一度個人年金の契約をしたら、他の資産運用に切り替えたいと思っても解約による金銭的なリスクがあるため簡単に解約することが難しくなるということです。

投資

投資は、資産を増やす方法です。投資方法には、不動産投資や株式投資などさまざまな方法があります。初心者の方でも比較的取り組み安いのが投資信託です。投資信託は、証券会社をはじめ銀行などの金融機関も広く扱っています。

投資信託の特徴は、専門家が代わりに運用してくれること。株式投資なら投資する株式の選定、不動産投資なら不動産の用意などさまざまな準備が必要になりますが、投資信託は株式や債券など投資の割合などをもとに投資する先を決めるだけで、投資した後は自動的に運用を行ってもらえます。気軽な気持ちで始められるのがポイントです。

さらに、投資信託であれば少額から投資が可能な商品もあります。1つの投資先に絞らず、いくつかの投資先に分けて、さらに分散投資でリスクを分散させるのも方法です。ちなみに、株式投資は購入する株式の下限が決まっているため少額での取引には向きません。

投資の大きなメリットといえるのが、資金の増加です。運用次第では、預貯金や個人年金と比べて老後の資産を増やせるので余裕のある生活を送る資金にすることも可能です。ただし、投資は元本保証がなく、元割れして損をする可能性があるので他の資金運用と組み合わせて利用するのがコツです。

まとめ

退職金なしの会社は増えているのが現状です。退職金がないということは、何も備えをしていなければ定年後に困ってしまうということ。老後に支給される公的年金だけでは生活が厳しくなる可能性があるので、早い段階で老後のための準備を進めることをおすすめします。

老後のための準備といえば、住宅ローンやカーローンなどの借金の清算はもちろん、老後のための資金作りも考えておかなければなりません。資産運用には預貯金、個人年金、投資などさまざまな方法があるのでメリットデメリットをもとに比較検討してみましょう。なお、こうした資産運用は銀行などの金融機関からも契約することができます。