日本の年金制度は賦課方式、つまり、現役世代が納めた年金を年金受給資格者に支払うという方法がとられています。この賦課方式の問題は、高齢化によって若者の負担が増える可能性があること。

そんな現役世代の負担を軽減するため、また高齢社会であっても長期的に制度を維持していくために、年金積立金という対策がとられています。年金積立金によって将来受給する年金に影響はあるのか、年金と年金積立金の関係について解説します。

「日本の年金運用はここが危険!」

日本の年金制度において、以前のままの賦課方式が続けば、現役世代の年金の負担割合は年々増加の一途をたどり、さまざまな問題が発生していたでしょう。そうした問題を解決するために平成16年に年金制度の改正が行われました。

年金制度改正によって変わったのが、平成29年度までに保険料の水準を段階的に引きあげて固定し、賦課方式をベースにだいたい100年で財政均衡がとれるように積立金を運用することです。しかし、こうした日本の年金運用が危険といわれることもあります。公的年金の運用について見ていきましょう。

■公的年金はどのように運用されている?

現役世代が納めた年金保険料すべてが年金受給者にいくわけではなく、一部は年金積立金となります。この年金積立金は長期的な運用に回されるわけですが、その運用や管理をしているのが、厚生労働大臣より寄託された年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)です。

GPIFでは、長期的な運用を可能とするための基本ポートフォリオを策定・管理しています。

基本ポートフォリオとは、保有する金融資産の割合のこと。安全性を重視するため、当初は国内債券メインの基本ポートフォリオとなっていましたが、少しずつ利回りを重視した基本ポートフォリオに移行してきています。

平成26年10月からの基本ポートフォリオは国内債券35%、国内株式25%、外国債券15%、外国株式25%です。

なお、GPIFが行うのは基本ポートフォリオの策定のみで、実際に年金積立金を運用するのは、委託を受けた信託銀行など民間の業者となります。

■年金運用で5兆円損失が出るとどうなる?

平成27年度の年金運用では、約5.3兆円の損失が出たという報道がありました。年間の公的年金の総支給額は50~60兆円程度になるので、だいたい年間の支給額の1割の損失です。5.3兆円あればかなりの人に年金が行き渡りますから、大きな損失でしょう。

ただし、あくまで報道は平成27年度、単独でスポットを当てたときの損失。もちろん報道のように年金運用で大きな損失が出ている年もありますが、トータルでみると年金積立金の運用はプラスで動いています。累積でみると、平成20年13.8兆円だった収益が平成28年には64.4兆円に伸びてきている現状です。

また、年金積立金のお金は給付にはあてないので、5兆円の損失が出ても問題なく年金を運用できるようになっています。しかし資金を運用するということはリスクもあるので、運用状況が悪ければ損をする可能性もあるでしょう。

「年金積立金が減ると年金はどうなる?」

累積でみて現状ではプラスに転じている年金積立金ですが、この状況がずっと続くとは限りません。実際に10兆円近い損失が出ている年もあります。

また、改正された年金制度では100年程度の期間で財政の均衡がとれることを目標としていますが、運用状況によっては目標に届かない可能性も考えられるでしょう。もし年金積立金が減ると、受け取れる年金にどのような影響があるのでしょうか。

■現状の年金制度は赤字?黒字?

平成29年8月に公表された厚生労働省年金局の「厚生年金・国民年金の平成 28 年度収支決算の概要」によると、平成28年度の国民年金の収支は歳入が4兆4309億円、歳出が4兆3816億円でした。差は493億円で歳入の方が少し多いです。一方の厚生年金の収支は、歳入が48兆7555億円、歳出が45兆6595億円で、歳入が3兆960億円多い状況となっています。

歳入が多いということは、年金の支給額よりも、現役世代が納めている年金保険料の額の方が多いということ。現状の年金制度は黒字だということがわかります。

黒字だからこそ年金積立金も成り立つのです。そもそも赤字になるということは、出ていく年金支給額と入ってくる保険料のバランスが取れていないということで、赤字が続くと制度的に問題があるということになります。

■年金積立金の赤字はどのように影響する?

現状の年金制度は黒字だということがわかりましたが、年金支給にあてられない年金積立金はまた別物です。年金積立金はそもそも、年金の収支が現状は黒字でも、将来的に年金制度が赤字になることがわかっているため設けられているからです。

今現在の年金の支給にかかわってくるわけではないので、年金積立金が赤字になったからといってすぐに影響があるわけではありません。しかし、将来の準備金としてある年金積立金ですから、年金積立金が赤字になると20~30年ほど先の将来に影響が出る可能性があります。

年金積立金が赤字になるということは、それだけ原資が減るということなので、たとえば将来もらえるはずの年金額が減るといった影響が考えられます。

■年金額への影響は?

もし年金積立金の赤字が続いて運用がうまくいかなかったとして、将来の年金額にどう影響するのでしょうか?日本の年金制度が破綻するのではないかと懸念もありますが、20年・30年先などのスパンで見ると年金の破綻はまず考えにくいです。

なぜなら、年金制度は現状黒字ですし、今すぐに年金積立金が必要になるわけではないためです。厚生労働省の想定によると、最も早くて2055年あたりから年金積立金を支給に利用する可能性があり、そのくらいから年金積立金の赤字が影響すると考えられます。

まず影響があるのが年金の支給額です。

現在の年金の支給額は、だいたい現役世代の総納付額の半分程度ですが、将来これが3~4割程度に落ち込む可能性があります。20年・30年後にはもらえる年金の額が少なくなるかもしれません。

まとめ

日本の年金制度は現在、一部運用によって将来の原資を確保する方法を取っています。しかし、年金積立金も順調に積立ができるとは限りません。年金の運用状況によってすぐに年金支給に影響が出るわけではありませんが、とはいえ将来の年金支給額に影響しない可能性もあります。

つまり状況次第では、将来の年金額が減る可能性もあるのです。将来の年金額に不安を感じるなら、貯蓄や私的年金などによって将来への資産形成を考える必要があります。