老後資金を形成するのに、公的年金のプラスアルファとして備えておきたいのが確定拠出年金。この確定拠出年金がほかの私的年金と異なるのが、自分で払い込んだ額を運用していく点です。

自分自身に運用の責任があるため、運用を失敗して残高が減る可能性もありますが、運用がうまくいけば払込額よりもさらに資産を増やすことができます。実際にどのように運用していくべきなのか、配分変更とスイッチングの点から確認していきましょう。

「確定拠出年金の3つのメリット」

私的年金なら、国民年金基金や個人年金保険をはじめ、さまざまな金融商品もあります。そんな中、なぜ確定拠出年金を選ぶと良いのでしょうか?確定拠出年金による運用のリスクだけでなく、まずは知っておきたいメリット3つを紹介します。

■掛金は全額控除!税金が減らせる

確定拠出年金は税制優遇が手厚く、毎月積み立てる掛金の全額を所得税や住民税の所得控除にあてることができます。

同じ所得控除でも、たとえば生命保険料控除は、支払った額すべてではなく一定の額、たとえば新契約の生命保険に関しては4万円などと限定されています。確定拠出年金のように、全額に税金の優遇があるのは大きいです。

所得税の計算に関しては、所得額に応じて5~45%と税率が変わってくるので、どのくらい控除されるかは人によって異なります。

一方、住民税は一律10%の控除が受けられます。毎月3万円、年間36万円の確定拠出年金の掛金があった場合、住民税は年間36,000円の節税ができるのです。

なお、確定拠出年金の掛金は全額控除ができると紹介しましたが、掛金には限度額が設定されています。個人事業主やフリーランスなどの第1号被保険者は月額68,000円が限度なので、最大で年間816,000円の所得控除が可能です。会社員の方については、勤め先に企業型確定拠出年金制度が導入されているかどうかで毎月の掛金の限度額は異なります。

■運用の儲けは非課税

確定拠出年金で運用できる金融商品は、投資信託と定期預金です。

投資信託はふつう、証券口座を開設して取引する金融商品ですが、投資信託により運用益が出た場合、儲けた分に対して税金がかかります。税額は所得税と住民税、復興特別所得税含め20.315%です。

定期預金については普段意識していないかもしれませんが、入ってくる利息は所得税や住民税が差し引かれた額となっています。

せっかく運用益が出ても税額分が差し引かれるため(源泉徴収なしの特別口座や一般口座は別途確定申告での納付)、税額分を差し引いた額での再投資となるのがデメリットです。

一方、確定拠出年金については、運用中の儲けはすべて非課税です。儲けた分をそのまま再投資に回せるため、同じ金融商品で同じ取引をするのであれば、普通の証券口座よりも運用の効率が良いです。

■何度でも売買可能!

確定拠出年金に似た制度で、NISAというものがあります。NISAも投資信託などの金融商品の売買に関して税制優遇が適用される制度で、年間100万円までの投資の運用益が非課税になります。

しかし気を付けたいのが、年間100万円が投資額100万円を指しているわけではないということ。

年間100万円は売買の合計額です。たとえば、NISAの口座で10万円からスタートして、年間10回で取引額100万円に達したとしたら、税金の優遇が受けられないということです。投資する額にもよりますが、短期で何度も売買をしたい人には向いていません。

一方、確定拠出年金についてはNISAのような縛りはなく、何度でも売買することができます。期間の途中で投資スタイルを変えたくなったら何度でも変更できますし、回数を気にすることなく自分のタイミングで投資が可能です。

ただし、確定拠出年金はあくまで老後資金の形成を目的とした制度。すぐに投資額を引き出せるNISAとは違い、原則60歳まで払い込んだ額は引き出せない点には注意しましょう。

「確定拠出年金の運用方法 配分変更」

確定拠出年金でできる運用方法には、配分変更とスイッチングの2つがあります。このうち配分変更とは、配分変更を行った時点から未来に向けて購入する商品の配分を変更すること。つまり、これまで投資した分には影響しません。具体的な配分変更のやり方、配分変更による運用方法の特徴について詳しく見ていきましょう。

■配分変更での運用

配分変更とは、確定拠出年金の毎月の掛金をどのように運用していくか、金融商品の運用比率を見直すことです。たとえば以下のようなケースがあります。

[配分変更の例]

Aさんは、安全性を重視して定期預金90%、バランス型の投資信託5%、株式型の投資信託5%で確定拠出年金をスタート。

5年間は様子見を込めてそのまま運用していましたが、だんだんリターンが欲しいと思うようになってきました。

そこで配分変更を検討。定期預金50%、バランス型の投資信託を30%、株式型の投資信託を20%にすることに決めました。

このように、配分変更とは状況に合わせて投資の比率を変えていくことです。なお、配分変更によって掛金が変わるのは配分変更後からとなり、これまで払い込んだ掛金に関しては、それまでの配分が適用されます。

このように、配分変更はリバランスという意味でも重要であり、分散投資にもなります。そこまで難しいものでもないので、確定拠出年金に入っている場合は、この配分変更だけでも積極的に行っていきましょう。

「確定拠出年金の運用方法 スイッチング」

確定拠出年金で配分変更を定期的に行い資産のリバランスを図っても、過去に投資している部分については変更されないため、実際の運用益になかなか反映されないことがあります。過去に投資した金融商品に足を引っ張られてしまうためです。

そこで考えたいのが確定拠出年金のスイッチング。これは、過去に運用していた商品を売却したり、あるいは新たに金融商品を追加したりするなどして投資の適正化を図ることです。投資のバランスだけでなく、どの金融商品が足を損になっているか見極めて、どこで何を投資するか考える必要があります。

■利益を確保するには

確定拠出年金における投資信託などの金融商品は、リターンが見込める反面、リスクも伴います。60歳までの長期の運用の中では、利益が出たり損が出たりすることは当たり前ですが、予想以上に損が出てしまうこともあります。このような場合、負担となっている金融商品を売却してしまうのも運用方法のひとつです。これはリスクを回避するための手段として有効です。

また、利益を確保するためにスイッチングするという方法もあります。利益が大きくなっている金融商品を売却して、資産を守る方向にシフトすることです。

たとえば、大きく利益が出た株式型の投資信託Aを売却して、元本を確保するため、売却した分を新たに金融商品Bに投資するといった方法です。金融商品Bは、より元本が確保される可能性が高い定期預金、あるいは債券型の投資信託を選択します。

■リバランスを行うには

たとえば金融商品A・B・C・D・Eを利用してそれぞれ5分の1ずつ投資するように設定したとします。毎月の掛金が5万円だとして、1年間続けるとそれぞれに分配された掛金は12万円です。しかし、1年後にそれぞれが12万円になっているかというと、12万円のまま動かないことはまずないといって良いでしょう。それぞれ利益が発生するものもあれば、損失に傾いてしまうものもあるはずです。

たとえば1年後、A~Eが以下のように運用益や損失によって保有額が変わったとします。

[例] A 20万円/B 10万円/C 15万円/D 5万円/E 25万円

積み立てた掛金自体の合計は60万円ですが、例の場合だと1年間の運用によって合計75万円に利益が膨らんでいることがわかります。しかし1つ1つを見ていくと、利益が出たもの、損が出たものはさまざまです。運用結果をベースにすると、A~Eがそれぞれ以下のような比率になったことがわかります。

[例] A 27%/B 13%/C 20%/D 7%/E 33%

当初の割合は5等分だったため各20%でしたが、運用結果によって比率が大きく変わってしまいました。リバランスとは、運用分のバランスを適正に保つこと。たとえばそれぞれ一定の比率に戻したい場合、A~Eを各20%に再度振り分けなおして、15万円ずつ保有するように調整します。

まとめ

確定拠出年金には所得税や住民税の所得控除を受けられるなどさまざまなメリットがありますが、自分で資産を運用していくという点がなかなか難しく、うまくいかない場合があります。そのため、運用方法は当初設定したままにするのではなく、見直す必要があります。

リスクを回避してリターンを伸ばすためにも、配分変更とスイッチングといった運用方法を活用して資産の適正化を図っていきましょう。実際のやり方が難しいと感じた場合は、銀行などの金融機関などで相談することをおすすめします。