「無駄遣いしていないのにお金が貯まらない」そんな悩みを抱えている人は少なくないでしょう。なかなかお金が貯まらない人こそ知っておきたいのが、積立貯蓄の代表でもある財形年金貯蓄です。自営業やフリーランスなどの個人事業を営んでいる場合は利用できませんが、会社員であれば財形年金貯蓄を利用できることがあります。

そもそも財形年金貯蓄とは何か、メリットやデメリットはないのか、老後の生活に関係してくる財形年金貯蓄について詳しくみていきましょう。

財形年金制度とは?

勤務先に財形貯蓄がある人もいるかと思います。財形年金貯蓄を含む財形制度は、そもそも会社で働く人の金融資産形成を目的に生まれた制度です。1960年代、働く人は増加の一途でしたが、諸外国と比べ貯蓄の保有率はよくない傾向にありました。打開策として、1971年に制定されたのが財形制度です。

うち、財形貯蓄制度は1972年にはじまり、1982年、計画的に老後の生活が送れるように財形年金貯蓄がはじまりました。実際どのような内容なのか、特徴と加入の条件を確認してみましょう。

財形年金貯蓄の特徴は?

財形貯蓄のうち、はじめにできたのが一般財形貯蓄です。計画的な貯蓄を目的に生まれました。給与から、設定した積立金が天引きされるしくみで、自動的にお金を貯めることができます。解約や引き出しなど自由度が高いので、自動的に積立してくれる普通預金のようなものと考えると分かりやすいかもしれません。

一方、一般財形貯蓄の後にできた財形年金貯蓄は、完全に老後の生活を目的としたもの。一般財形貯蓄のようにすぐに引き出すことはできません。また、年金型とあるように、受給できる年齢になったら一括ではなく、分割で受け取るようになっているのが特徴です。財形年金貯蓄は公的年金には含まれませんので、個人でかける私的年金のイメージです。

自分でお金を管理するとなかなか貯まらず、老後が心配な人にとっては使い勝手のよい制度ではないでしょうか。給与から強制的に引かれるので、月末に「貯蓄のためこれくらいは残しておかなくてはいけない」と考えるストレスがありません。

財形年金貯蓄に加入する条件は?

そもそもの前提として、勤め先が財形年金貯蓄を導入していないと、財形年金貯蓄は利用することができません。まず、財形年金貯蓄制度が会社にあるか確かめることが先決です。

さらに、財形年金貯蓄には加入にあたっていくつかの条件があります。まず、満55歳未満の会社員であり、積立期間が5年以上あることです。積立期間の条件があるために、年齢に上限があります。ただし条件を満たせば、会社に雇われている正社員だけでなく、長期雇用が見込まれる契約社員やアルバイトも利用できます。気になる場合は、勤務先の担当者に確認してみるとよいですね。

また、その他の条件として一般財形貯蓄と財形住宅貯蓄との併用はできますが、それ以外の財形貯蓄を契約しているときは加入することができません。他に財形貯蓄を利用している場合は注意しましょう。

最後にもう1つ注意したいのが、積み立てた額を受け取れる期間です。年金という性質もあり、積み立ててからすぐに受け取ることはできません。受け取り期間は満60歳以降。5年以上20年以内に年金方式で受け取れます。いろいろと縛られるルールがあるので、老後の生活関係なしにただ貯蓄をしたい場合は、他の財形貯蓄を検討した方がよいかもしれません。

財形年金貯蓄のメリット

財形年金貯蓄と、その他の財形貯蓄、加入の条件について紹介してきました。財形年金貯蓄の大きな特徴は給与から天引きされることですが、他にはどのようなメリットがあるのでしょうか。また、財形年金貯蓄はどういった人に向いている方法なのでしょう。

財形年金貯蓄の3つのメリットを知って、財形年金貯蓄が自分に向いた貯蓄の方法なのか、どういったときに活用できるものなのか考えていきましょう。

利率の高さ

実際の金利は財形年金貯蓄を取り扱っている金融機関によって異なります。ただ、同じ財形貯蓄で比較すると引き出しの自由度が制限される分、利率はやや高めです。老後の生活のためにお金を積み立てておきたいと考えるのであれば、一般財形貯蓄よりも財形年金貯蓄を選んだ方が得です。ただし、一般財形貯蓄のようにすぐに引き出すことができないので、貯蓄にまわしても問題ないくらいの積立額を設定した方がよいでしょう。

また、財形年金貯蓄の利率がよいといったものの、あくまで他の財形貯蓄と比較した場合です。低金利時代に突入していることもありますが、その他の金融商品と比べると利率の高さに魅力を感じられない人もいるかもしれません。財形貯蓄の強みは、給与から天引きされることで自動的にお金が積み立てられることなので、お金を貯めることが得意な人にも向いていないかもしれませんね。

なかなかお金が貯められない人は、一般財形貯蓄よりも財形年金貯蓄の方が金利的なメリットがあるので、資金を形成するための候補に入れておくとよいかもしれません。

非課税措置の適用

財形年金貯蓄には利子等の非課税があります。通常、銀行預金や債券の利子には、15%の所得税、0.315%の復興特別所得税、5%の地方税、合計20.315%の源泉分離課税が適用されています。銀行預金など、口座の残高に合わせて利子がつきますが、実際に振り込まれているのは、源泉分離課税によって税金分が差し引かれた後の金額です。財形年金貯蓄を利用すると、ある一定額まで源泉分離課税の対象から外れます。

財形年金貯蓄には、預貯金タイプと保険タイプがありますが、預貯金タイプであれば元金と加算される利息合わせて550万円まで非課税です。保険タイプの場合は、払込額のうち385万円までが非課税になります。一般財形貯蓄にはないメリットです。

ただし、老後の生活資金を目的にしたものですので、一般財形貯蓄のように簡単に払い出してしまうと非課税にならないことがあります。

60歳から年金を受け取ることができる

公的年金の受給は60歳から65歳に引き上げられました。据え置き状態ではありますが、今後65歳から受給年齢が引き上げられないとは限りません。公的年金の受給が65歳になったことによるデメリットは、定年退職してもすぐに年金が受け取れないこと。60歳で退職したら、65歳までの5年間、給与による収入が絶たれてしまいます。定年退職後に再就職する方法もありますが、定年退職前よりも給与が下がってしまうことがあります。公的年金の受給年齢引き上げに、まだまだ企業の雇用体制が整っていないのが現状です。

ですが、財形年金貯蓄を利用していれば、定年退職後の生活費の心配が和らぎます。財形年金貯蓄の受け取りは、60歳以上だからです。財形年金貯蓄とこれまでの貯蓄で年金受給までの期間を乗り切る、または再就職をして財形年金貯蓄で不足分を補うなど、老後の収入が増えることによって生活に余裕が生まれます。定年退職後の生活が不安だと感じるなら、財形年金貯蓄を利用してみるのも方法の1つですね。

財形年金貯蓄のデメリット

財形年金貯蓄のメリットを紹介しましたが、メリットだけではありません。デメリットもあります。財形年金貯蓄を選ぶうえで注意するべき点はどこでしょうか、また財形年金貯蓄を選ばない方がよい人はどのような人なのでしょう。財形年金貯蓄の利用を考えているのであれば、メリットだけでなくデメリットも知っておきましょう。デメリットを知っていることで、もしものとき資金をいかに守るか考えることができます。それでは、財形年金貯蓄のデメリット3つを解説します。

非課税措置が適用されない条件がある

財形年金貯蓄のメリットに利子等の非課税が限度つきであると紹介しましたが、非課税処置が適用されないことがあります。非課税枠を超えた部分の積み立て、そして年金以外の目的でお金を引き出した場合です。

非課税枠については前述しましたが、年金としてでなく生活費などが足りなくなったなどの理由で引き出すと非課税措置自体を受けられなくなります。引き出した積立金はもちろん、引き出さなかった分も解約となり財形年金貯蓄として認められません。

ただし、やむをえない事情があった場合は非課税措置を適用させてお金を引き出すことができます。以下、5つのケースいずれかに該当する場合です。

1.所有の家屋が災害による被害を受けた(生計を一にする家族である場合も適用)

2.年間200万円を超える高額な医療費の支払いがあった(生計を一にする家族である場合も適用)

3.所得税法の寡婦や寡夫になった

4.所得税法の特別障害者になった

5.雇用保険特定受給資格者、特定理由離職者になった(倒産や解雇、正当な理由による退職)

正当な理由もなく引き出すと税金のメリットがなくなります。余剰分をすべて財形年金貯蓄にまわすのは少し考えものです。

税制メリットが手薄い

財形年金貯蓄に税金面での優遇はありますが、実際にあるのは利子等の非課税措置のみです。それも金額に上限があるので、数千万円単位で積み立てたいのであればあまり魅力的な制度とはいえません。非課税枠の広い預貯金でも、元金と利子合わせて550万円までしか非課税にならないためです。

もちろん全く税金の優遇がないよりはよいですが、公的年金など他の年金制度と比べると見劣りしてしまいます。

例えば、近年注目されている確定拠出年金です。確定拠出年金は掛け金と運用益のすべてが非課税になります。非課税枠が限定される財形年金貯蓄と比べると大きな差です。さらに、確定拠出年金は退職後年金で受け取る場合は公的年金等控除、一時金であれば退職所得控除の適用が受けられます。

財形年金貯蓄よりも税金的なメリットがある年金もあるので、節税を考えるのであれば財形年金貯蓄はあまり向いていないでしょう。

インフレへの対応が厳しい

財形年金貯蓄に限ったことではありませんが、インフレ、つまり物価の上昇が発生したときにデメリットがあります。インフレによって、100円だったものが500円に上昇するなど物価が全体的に上がれば、お金の価値は下がってしまうためです。例えば500万円財形年金貯蓄にあったとしても、お金の価値が5分の1になれば100万円の価値にしかならないということです。長年日本経済は緩やかなデフレなのであまり実感が湧かないかもしれません。しかし、急激なインフレの可能性はゼロではないのです。

例えば、インフレのシグナルがあって、早いうちから資金を分散するなど対応すれば、このようなインフレによる損はある程度防ぐことができます。しかし、財形年金貯蓄は契約上簡単に解約できるものではありません。解約が難しいので、インフレへの対応ができず、場合によってはただお金の価値が下がるのを眺めるだけになってしまいます。

確かに普通預金や一般財形貯蓄の金利と比較すると財形年金貯蓄の金利は高めです。しかし、金利では補えず、インフレがきたとき老後の資金が減ってしまうリスクもあります。

まとめ

財形年金貯蓄は、会社員だからこそ選択できる方法です。大きな特徴は、会社からの給与の天引きで金融資産を形成できること。貯蓄がうまくできない人なら候補に入れておきたい方法です。しかし、メリットばかりでなく、インフレに弱い、税金面でのメリットが少ないなどデメリットもあります。

金融資産の選択は将来の資産の形成にもかかわってくること。メリットばかりに目を向けるのではなく、デメリットも理解して適切な金融資産選びをしましょう。