老後の収入のメインとなるのが年金ではないでしょうか。国民年金、厚生年金、人によって納めている年金の種類や年金の額が異なるため、将来一律に年金が支給されるわけではありません。
確定した支給額がわからないとしても、リタイア後のライフ設計をするためにある程度の受給額は知っておきたいもの。年金受給額の平均はどのくらいなのでしょうか。老後にもらえる年金の種類とだいたいの額について確認してみましょう。
「老後にもらえる年金はどんなお金が対象?」
老後にもらえる年金として一括りにされることもありますが、年金にはいくつかの種類があって、受給額も年金の種類ごとに決まっています。
会社員の場合知っておきたいのが、基礎年金、厚生年金の他、確定拠出年金・厚生年金基金などの強制加入ではない年金です。年金受給額の平均がいくらか知る前に、年金の基礎である各年金の特徴と受給額の計算について知りましょう。
■基礎年金
日本の公的年金は3階建てになっており、1階部分にあたる20歳以上60歳未満の日本に住んでいる人すべてに加入義務があるのが基礎年金(国民年金)です。会社員の場合、自動的に厚生年金と合わせて基礎年金も給与から天引きされています。
基礎年金という言葉からもイメージできるように、基礎年金は年金の中でもベースになるもの。所得ではなく、支払った期間や猶予された期間などを考慮して計算します。平成30年度時点だと、40年間満額を支払った場合の老齢基礎年金の年額は779,300円。月にするとだいたい65,000円程度の受給になります。
会社員でない、個人事業主やフリーランスの場合は基本的に国民年金のみの加入になるため、会社で働いたことがない場合は基礎年金のみの支給です。
■厚生年金
厚生年金は、公的年金制度では2階部分にあたる年金です。会社員であっても厚生年金に加入しないケースもありますが、ほとんどの事業所に加入義務があるため、基本的に会社員は厚生年金に加入しているものと考えて良いでしょう。
公務員に関しては共済年金への加入が義務となっていましたが、制度の改正によって公務員も厚生年金へと移行しています。
厚生年金と基礎年金の違いは、加入していた期間だけでなく、所得によって支払額、受給額が変わってくること。月の支払額は、基礎年金を含め平成29年度時点で18.3%です。だいたい2割が引かれる計算になりますが、厚生年金の支払いは会社と折半のため、実質9%程度の負担で済みます。
このように所得が高いほど年金の支払額も大きくなるため、所得に比例するように将来の受給額も所得と支払い期間に応じて高くなります。
■確定拠出年金・厚生年金基金・年金払い退職給付
公的年金は3階建てになっていると紹介しましたが、会社員に加入義務があるのは2階部分である厚生年金までです。3階部分は企業が制度を導入している場合など、加入は任意になります。公的年金の3階部分にあたるのが確定拠出年金(企業型DC)、厚生年金基金、確定給付拠出年金(年金払い退職給付)の3つです。
これら任意の公的年金に共通するのが、基本的に会社が掛金を用意するということ。退職金の代わりに、このような企業年金を利用している会社もあります。
なお、導入するかどうかは企業によって異なるため、会社が制度を導入していない場合は加入できません。企業が制度を導入し、さらに社員が加入している場合は、基礎年金と厚生年金に上乗せされる形で、掛金に応じて受給額が加算されます。
「平成30年の年金受給モデル」
大きく分けて年金には、国民年金、厚生年金、確定拠出年金などの企業年金の3種類があって、それぞれ受給額の計算が異なることがわかったかと思います。
ただ、所得や支払った期間によって受給額が違うといっても、ある程度の額は知っておきたいものですよね。そこで参考になるのが、年金受給額の平均です。将来どのくらいの年金がもらえるものなのか、モデル夫婦の例を使ってシミュレーションしてみましょう。
■モデル夫婦の受給事例
モデル夫婦とは、夫が平均的な収入で40年間就業し、妻が専業主婦の世帯のケースを想定したものです。夫の収入が平均的な収入であること、時代によって物価が変わってくること、また積立方式でなく現役世代の納めた年金がそのまま受給額にあてられる賦課年金であることから、受給額は毎年やや変化しています。
過去のモデル夫婦の年金受給額をさかのぼると、平成元年で月額197,400円、平成11年で238,125円でした。平成30年はというと、老齢基礎年金を含んだ夫婦2人の年金受給額は221,277円です。これは、夫の年収が平均的な年収、賞与を含めた標準報酬月額が42.8万円であった場合の受給額になります。
■平均受給額は?
ここまでモデル夫婦の年金受給額についてみてきましたが、モデルケースに当てはまらない家庭も多いのではないでしょうか。モデルケースではなく実際に受給している人の平均額はどうでしょう。
厚生労働省の「平成28年度 厚生年金保険・国民年金事業の概況」によると、厚生年金に加入していない国民年金受給者の受給平均額が月額51,221円です。受給者の年齢にもよりますが、平成30年度の国民年金の満額は65,000円程度なので少なめになります。
一方の厚生年金加入者に関しては、基礎年金(国民年金)受給額の平均が月額55,373円、厚生年金受給額の平均が月額145,638円です。実際にもらう額は基礎年金と厚生年金を合わせた金額になるため、201,071円が実際に受給している人の平均となります。
モデル夫婦の年金受給額は221,277円でしたので、その差は約2万円。多少の違いはあるものの、モデル夫婦の例は現実からあまり離れたものでないことがわかります。
「男女別にみる平均支給額」
モデル夫婦の年金受給額と平均受給額について解説してきましたが、モデル夫婦は典型的な夫婦の例、平均受給額は男女の平均です。女性の場合は、結婚や出産などで仕事を離れたり、復帰しても以前とは違う働き方を選択したりするケースもあるため、男女の年金受給額にはどうしても差が出てきます。
それでは男性と女性、性別差は年金受給額にどれくらいの影響があるのでしょうか。厚生労働省の「平成28年度 厚生年金保険・国民年金事業の概況」のデータをもとに、国民年金と厚生年金、それぞれの年金受給額の違いをみていきましょう。
■国民年金の1カ月あたりの平均支給額
まずは国民年金(基礎年金)の平均受給額から。基礎年金の平均支給額は月額55,373円、男性の平均が58,806円、女性の平均が52,708円です。男女合わせた平均支給額がちょうど男女の中間くらいの位置づけになります。
男女の平均の差は約6,000円。多少の支給額の違いはありますが、そこまで大きな差となっていないことがわかります。そもそも国民年金の加入は義務ですし、納付猶予や免除制度などを活用することである程度は受給額へ加算することができるのも影響しているのかもしれません。
なお、男女ともに6~7万円の受け取りが多い結果となりました。ただ男性の場合6~7万円の受給者が60%近くなのに対して、女性は30%ほど。男性の平均支給は6~7万円に集中していますが、女性の平均支給額はまばらで、5~6万円が24%、4~5万円が約19%、3~4万円が14%などとバラつきがあります。専業主婦が任意加入だった時代もあるため、働き方だけでなくそうした部分も女性の国民年金支給額に影響しています。
■厚生年金の1カ月あたりの平均受給額
厚生年金は、国民年金と違って所得額が年金受給額に大きく影響する年金です。全体の平均受給額は月額145,638円ですが、男女別でみると男性166,863円、女性102,708円となります。男性の平均受給額は女性の1.5倍以上です。
ここまででも厚生年金の平均受給額に大きな差があることがわかりますが、年金受給額を細かくみていくと、さらに男性と女性で大きく違うことがわかります。男性の厚生年金受給者でトップは18~19万円。だいたい16~22万円あたりで受給している人が多いです。仮に厚生年金の受給が18万円だとすると国民年金と合わせて24万円ほどの受給となります。
一方、女性の受給者で多いのが9~10万円。広い範囲でみると7~12万円程度の受給者が多いです。仮に9万円とした場合、国民年金と合わせた平均受給額は約14万円になるので、男女で10万円近く差があることになります。
あくまで現在の受給者の平均であって、現代の女性の働き方は変わってきているため必ずしも平均受給額になるわけではありませんが、男女で差があることは頭に入れておくと良いでしょう。
「公的年金に頼らない資金作りが重要」
総務省統計局の平成29年度の家計調査報告によると、年金の受給がはじまる世帯主の年齢65歳以上、世帯人数2人以上の場合、月額の支出平均は247,701円でした。年額にすると約300万円。
単純に厚生年金加入者の平均受給額、月額201,071円で考えると月46,630円のマイナス、年間60万円ほど足りない計算になります。それでも後期高齢者である75歳以上になると支出も落ちつく傾向にありますが、人生何があるかわかりません。
国民年金のみの加入者に至っては、明らかに公的年金のみでは生活ができないでしょう。そこで考えたいのが、加入義務のある公的年金だけに頼らない老後資金の形成です。老後資金形成のための4つの方法を紹介します。
■国民年金基金
国民年金基金は、第一号被保険者である国民年金への加入者、個人事業主やフリーター、フリーランスのための任意の公的年金制度です。国民年金とは別に毎月掛金を支払うことによって、国民年金に上乗せして受給額を増やすことができます。
国民年金基金の特徴は、積立方式で将来の年金額が確定しているということ。国民年金は賦課方式のため受給額が見直される可能性がありますが、国民年金基金は支払った掛金の額に応じて支給額が決まります。
また、給付のバラエティーに富んでいるのも特徴的。15年間保証付きの65歳支給開始の終身年金A型、保証なしの65歳支給開始の終身年金B型のいずれかにまず加入する必要がありますが、他にもI~V型まであり5~15年の確定支給など受け取りの方法を選択できます。なお、保証付きとは、支給開始までに被保険者が亡くなったときの遺族への保証のことです。
掛金については、月額68,000円まで。払込額や支払い期間に合わせて、強制加入の国民年金に1~6万円程度の上乗せができます。ライフスタイルに合わせて掛金の変更ができる点、税額控除がある点にも注目したいです。
■個人年金保険を利用する
個人年金保険は、公的機関による年金制度ではなく、各保険会社の個人年金保険のことです。個人年金保険の特徴は、保険会社によってプランが異なるため、豊富な選択肢があるということ。
例えば、将来の年金の受け取り方でみると、生死にかかわらず確定した期間に年金が受け取れる確定年金、生きている間ずっと受け取れる終身年金、一定期間生きている間に限り受け取れる有期年金があります。受け取り方法に応じて保険料も変わってくるため、毎月の負担とバランスを取った将来の資金形成が可能です。
また、将来受け取れる年金についても運用によって保険額が変わる変額個人年金、外貨で運用する外貨建て年金もあるので、リスクもありますがより年金を増やしたいときに活用できます。なお、全額ではないですが、個人年金保険に関しては一部税額控除も可能です。
■確定拠出年金を利用する
近年、政府が力を入れているのが個人の資金運用。諸外国と比べて、日本はまだまだ個人の資金運用の意識が低いとはいわれていますが、一定額まで非課税となるNISA、NISA積立と、個人の資金運用のハードルが低くなるように環境が整備されてきました。
確定拠出年金についても、そんな個人の資金運用の1つといって良いでしょう。そもそも、確定拠出年金とは公的年金の3階部分にあたる制度で、任意に加入する年金のことです。厚生年金などのように将来の資産形成が目的で、原則解約できない決まりがあります。ただし、厚生年金などの公的年金、国民年金基金や厚生年金基金などと異なるのが、将来の年金が個人の運用に委ねられているという点。
平成30年現在では、定期預金、投資信託の中から運用商品を選択できます。また、企業型の場合は、基本的に掛金は会社負担、企業型の上乗せ分と個人型の掛金については全額税額控除の対象です。
■小規模企業共済を利用する
小規模企業共済とは、個人事業主や小規模企業の経営者を対象とした退職金制度です。基本的に会社員のような退職金が発生しない人にとっては利用価値があります。
月々の掛金は1,000円から。最大月70,000円まで掛金として積み立てることができます。はじめに設定した掛金から変更もできるので、事業の状況に合わせて増減できる点は大きいです。なお、受け取りについては一時金または10年・15年の年金から選択可能。廃業や法人の解散があった場合、被保険者が亡くなった場合、180カ月以上の払い込みがあり65歳以上となったときに給付が受けられます。
70,000円の満額を40年間支払い続けた場合の一時金は約4,000万円。年金受け取り10年なら月当たり約35万円、15年なら約25万円の計算です。終身の受け取りはできませんが、加入期間が長いと払込額より受け取り額が大きくなります。全額を税額控除できる点もメリットです。
まとめ
公的年金の受給、とりわけ国民年金のみの受給であれば老後の暮らしが不安です。厚生年金受給者であっても、加入期間や所得によっては平均受給額に満たない可能性もあるので、老後資金の備えが十分にできているとはいえないでしょう。
銀行など金融機関を利用する確定拠出年金の他、公的年金以外の年金制度や保険などについても考えていく必要があります。