「1億円の壁」がついに崩れる?2027年から始まるミニマム課税強化をわかりやすく解説
この不公平を是正するため、2025年から「ミニマム課税」がスタートしましたが、2026年度税制改正でさらに大幅に強化され、2027年分の所得から適用されます。「自分には関係ない」と思いきや、相続した株や不動産を売却する際には想定外の課税対象になりうるケースも。この記事でポイントをしっかり押さえましょう。
1. そもそも「1億円の壁」とは何か?
日本の所得税は累進課税が原則です。給与・事業所得などは所得が多いほど税率が高くなり、住民税と合わせると最大55%(所得税45%+住民税10%)の税率がかかります。
ところが、株式の売却益や配当金などの「金融所得」は原則として一律20.315%(所得税15.315%+住民税5%)の低い税率で分離課税されます。そのため、所得の大部分が金融所得である超高所得者は、実際には非常に低い税負担率しか負わない場合があります。
| 所得の種類 | 課税方式 | 実効税率(目安) |
|---|---|---|
| 給与所得・事業所得 | 総合課税(累進) | 最大55%(所得税45%+住民税10%) |
| 株式譲渡益・配当金 | 分離課税(一律) | 20.315% |
| 長期保有の土地・建物の譲渡 | 分離課税(一律) | 20.315%(所得税15%+住民税5%) |
財務省の統計では、所得1億円を超えると税負担率が下がり始め、所得が数十億円になると実質的な負担率が10〜20%台にとどまるケースも存在します。給与所得者が中低所得帯であっても30〜40%台の税負担率を負っていることと比べると、明らかな不公平感があります。これが「1億円の壁」と呼ばれる問題です。
2. 2025年からスタートした「ミニマム課税」の仕組み
この不公平を是正するため、2023年度税制改正で「ミニマム課税」(正式名称:極めて高い水準の所得に対する負担の適正化に関する措置)が導入され、2025年分(2026年確定申告時)から適用されています。
仕組みはシンプルです。確定申告不要の証券口座での利益も含めたすべての所得(基準所得金額)が3億3,000万円を超えた場合、その超過部分の22.5%が「最低でも支払うべき所得税額」として計算され、通常の所得税額との差額を追加で納税する仕組みです。
【現行(2025〜2026年分)のミニマム課税の計算式】
↓ この金額が「通常の所得税額」を上回った差額を追加納税
現行制度では対象になるのは「基準所得3.3億円超」に限られており、主に10億円以上の金融所得がある超富裕層だけが実質的な対象でした。そのため対象者はごく限られていました。
3. 2026年度改正で何がどう変わる?【新旧比較】
2026年度税制改正大綱(令和7年12月26日閣議決定)で、このミニマム課税の仕組みが2027年分の所得から大幅に強化されます。変更点は主に2つです。
概ね10億円以上
概ね3〜4億円以上
| 項目 | 現行(2025〜2026年分) | 改正後(2027年分〜) |
|---|---|---|
| 特別控除額(非課税枠) | 3億3,000万円 | 1億6,500万円(半減) |
| 最低税率 | 22.5% | 30% |
| 対象所得の範囲 | 基準所得が3.3億円超の部分 | 基準所得が1.65億円超の部分 |
| 対象外の所得 | 国内の預貯金利子・NISA口座の利益は対象外(改正後も同様) | |
| 適用開始 | 2025年分(2026年確定申告〜) | 2027年分(2028年確定申告〜) |
2つの変更が重なることで、影響を受ける所得水準が「10億円以上」から「3〜4億円以上」へと大幅に引き下がります。これまでごく一部の超富裕層だけが対象だった制度が、より広い高所得者層に波及することになります。
4. 改正後の計算式と具体例でイメージする
【改正後(2027年分〜)のミニマム課税の計算式】
↓ この金額が「通常の所得税額(基準所得税額)」を上回った
差額を追加納税
具体例:株式譲渡所得が5億円だった場合
| 計算項目 | 改正前(2026年分まで) | 改正後(2027年分から) |
|---|---|---|
| 基準所得金額 | 5億円 | 5億円 |
| 特別控除額 | 3億3,000万円 | 1億6,500万円 |
| 超過分 | 1億7,000万円 | 3億3,500万円 |
| 最低負担税額 | 3,825万円(×22.5%) | 1億0,050万円(×30%) |
| 通常の分離課税(15%) | 7,500万円 | 7,500万円 |
| 追加納税の有無 | なし(最低負担税額<通常税額) | あり:差額約2,550万円を追加納税 |
同じ5億円の株式譲渡所得でも、2026年中の売却なら追加課税なし、2027年以降なら約2,550万円の追加納税が発生するという計算になります。売却のタイミングが重要なケースがあることがわかります。
5. 「自分には無関係」とは言い切れないケース
所得1.65億円超というと「超富裕層の話」と感じるかもしれません。しかし次のようなケースでは、普段は高収入でない人でも一時的に基準所得が跳ね上がる可能性があります。
- 相続した株式や投資信託を一括売却するとき
親などから多額の株式を相続し、まとめて売却した場合、その譲渡益が一年分の所得として計上されます。取得費が低い(含み益が大きい)場合は数億円規模の所得になることも。 - 都市部の大型不動産(好立地の土地・マンション等)を売却するとき
長期保有していた土地や建物を売却する場合、譲渡所得は15%の分離課税(長期)となります。価値の上がった都市部の不動産を売却すると、譲渡益が数億円になるケースもあります。 - 中小企業・同族会社のオーナーがM&A(株式売却)をするとき
自社株を売却する場合の譲渡益も対象です。特に2027年以降は株式譲渡所得が約3.4億円を超えるとミニマム課税が発動します。 - 複数の売却が重なった年
不動産・株式・事業の売却が同じ年に重なると、合算されて基準所得が急増することがあります。時期を分散できないか事前に専門家と相談することが重要です。
6. NISAの利益は対象外!NISA活用の重要性があらためて高まった
つまり、NISAを最大限活用して資産を増やすことは、高所得になっても「追加課税なし」で運用益を受け取れるという点で、一般の投資家にとって今後さらに重要な戦略になります。
| 所得・利益の種類 | ミニマム課税の対象? |
|---|---|
| 特定口座(源泉徴収あり)での株式譲渡益・配当 | ✅ 対象(基準所得に含む) |
| 一般口座での株式譲渡益 | ✅ 対象 |
| 長期保有の土地・建物の譲渡所得 | ✅ 対象 |
| 給与所得・事業所得・不動産所得 | ✅ 対象 |
| NISA口座の売却益・分配金・配当 | ❌ 対象外 |
| 国内の預貯金利子 | ❌ 対象外 |
新NISAでは年間360万円・生涯1,800万円まで非課税で投資でき、売却益・配当に一切課税されません。ミニマム課税の強化は、裏を返せば「NISAの外で大きな利益を得る際には課税が厳しくなる」ということでもあります。NISAを長期積立の主力に据えることの合理性が、改めて高まっています。
7. 今からできる対策と注意点
①大口の株式・不動産売却は2026年中の実行を検討する
改正は2027年分の所得から適用されます。相続した株や不動産の売却を検討している場合、2026年12月末までに譲渡契約を締結し、2026年の所得として申告できるかどうか税理士に相談することを検討してください。ただし慌てて売却するのは禁物で、価格・市場・相続税の観点も総合的に判断が必要です。
②複数の売却が重なる年には所得を分散できないか検討する
不動産が複数ある場合、売却を複数年に分けるだけでミニマム課税の発動を回避できることがあります。含み益2億円と3億円の不動産を同一年に売却するより、1年ずつ分けるほうが有利なケースがあります。事前の試算が重要です。
③NISAを最大限活用して「課税対象外の資産」を育てる
毎年のNISA枠(年間最大360万円)を積み立てることで、NISA内の資産はどれだけ大きくなっても課税されません。長期的に大きな資産を築く計画がある方は、まずNISA内で運用する資産を最大化することが最善策のひとつです。
④ミニマム課税の影響がありそうなら専門家(税理士)に相談する
概ね3〜4億円を超える所得が見込まれる年がありそうな場合は、確定申告前に税理士・ファイナンシャルプランナーへの相談をお勧めします。iDeCoやふるさと納税などの控除策がミニマム課税下では機能しにくくなる点も含め、総合的な税負担を試算してもらうことが大切です。
8. まとめ
📝 この記事のまとめ
- 「1億円の壁」とは、金融所得中心の超高所得者の実質的な税負担率が一般的な給与所得者より低くなる不公平な現象
- 2025年からミニマム課税が導入(基準所得3.3億円超・税率22.5%)されたが、2026年度改正でさらに強化される
- 改正後(2027年分〜)は非課税枠が1.65億円に半減・税率が30%に引上げ。影響を受ける所得水準が約3〜4億円超まで引き下がる
- 一般の人でも相続した株の売却・大型不動産の譲渡・M&Aなど一時的な高額所得が発生する局面では関係しうる
- NISA口座の利益は引き続き対象外。NISAを最大活用する意義が改めて高まっている
- 大口売却を検討中なら2026年末までの実行を専門家と検討する価値がある。ただし焦りは禁物
税制は毎年変わります。「自分には関係ない」と思っていても、相続や大きな資産の動きが重なる場面で予想外の課税が発生することがあります。制度の変化を定期的にチェックし、いざというときに備えておきましょう。
