近年、投資商品として注目を集めているNISA(ニーサ)。2018年1月からは「つみたてNISA(積立NISA)」が登場し、より投資がしやすい環境になってきました。

そもそもNISAとは、Nippon Individual Saving Account(ニッポン・インディビジュアル・セービング・アカウント=日本版個人貯蓄口座)の頭文字を取ったもの。イギリスの個人貯蓄口座をもとに誕生した制度です。注目のつみたてNISAとは何なのか、従来のNISAとの違いも合わせてお話ししていきます。

つみたてNISAとは?

注目されるつみたてNISAがどういったものなのかという部分から、まずは話を進めていきましょう。

つみたてNISAは、2018年1月から運用がはじまった新しい投資制度のこと。個人の、小規模で、かつ長期的な積立投資や分散投資をサポートするためにスタートしました。

日本に住む20歳以上の人が利用できる制度で、最長20年、毎年40万円を上限に、非課税の適用を受けられます。2018年8月時点で2037年までの継続が見込まれる制度です。それでは、どういった内容のものなのか詳しくみていきましょう。

■ 運用は投資信託がメイン

つみたてNISAは、非課税が最長20年間適用されるだけでなく、運用する金融商品にも特徴があります。2018年8月20日時点の金融庁の対象商品は、指定インデックス投資信託138本、アクティブ運用投資信託17本、ETF(上場株式投資信託)3本の、計158本です。

いずれも投資信託であることがわかります。投資信託とは、投資を、運用のプロであるファンドにゆだねる方法のこと。ファンドが投資者から集めた資金をもとに投資を行うため、少額でも分散投資が可能になります。

しかも、つみたてNISAの投資信託は、投資の初心者でもはじめやすい厳選されたラインナップです。長期運用を目的にしているため、運用中の手数料である信託報酬も抑えられているので、まったくの投資知識なしからはじめる場合でもやや安定した運用ができます。

つみたてNISAと従来のNISAとの違いは?

ここまで、つみたてNISAについて簡単に説明してきましたが、2014年1月1日にはじまった従来のNISAとの違いがいまいちわからないと感じている人もいるかもしれませんね。同じNISAという名称がついていることで、一部非課税など共通点もありますが、その内容は大きく異なります。

つみたてNISAと従来型のNISA、両者の違いを4つの観点から比較してみましょう。

■ つみたてNISAは積立投資専用のNISA

つみたてNISAは、「つみたて」という言葉からわかるように、積み立てによる金融資産の形成を目的としたもので、積立投資専用の口座になっています。毎月少額ずつ積み立て、長期的にお金を作っていきたい人に向いているでしょう。毎月が難しい場合は、金融機関にもよりますが、ボーナス払いなどの指定ができることもあります。ただし、積み立てしか利用できません。

一方、従来型のNISAは、つみたてNISAのような積み立てしかできないなどの縛りのないものです。スポット買いで好きなタイミングで投資信託を購入することもできますし、積み立てで購入することもできます。自由度の高さからみると、従来のNISAの方が使い勝手は良いです。

■ 非課税で投資可能な期間と上限額の違い

従来のNISA、つみたてNISA、どちらも非課税枠がありお得ですが、非課税の期間と上限額が異なります。

まず、従来型のNISAの場合、上限額は1年ごとに120万円までが非課税です。120万円までの投資額であれば税金が課税されることはありません。ただし期間中すでに利用した非課税枠については売却で復活しないため注意しましょう。また、期間も最大5年と短めの設定です。

一方のつみたてNISAは、年間40万円までの積立投資額が非課税になる制度です。従来のNISAと比べると年間の非課税枠が少なく感じますが、期間が最大20年と長めに設定されています。従来型よりも、少額の長期投資に向いている制度といえるでしょう。

■ 投資対象の金融商品の違い

つみたてNISAと従来のNISAでは取り扱われている金融商品にも違いがあります。先に紹介したように、つみたてNISAで取り扱われている金融商品は、2018年8月時点で株式を含んだ投資信託と、ETFといわれる上場企業の株式に絞られた2種類のみです。

これは、長期の分散投資向けに厳選されていることが理由ですが、投資信託を利用してきた人にとっては選択肢が少なく物足りないかもしれませんね。反対に、選択肢が狭まる分、投資信託の比較に悩まされずに済むため初心者にはかなり扱いやすい制度となります。

一方の従来型のNISAですが、株式を含めた投資信託のほか、上場株式、ETF、ETN(上場投資証券)、REIT(不動産投資信託)、ワラント債(新株予約権付社債)から選択が可能です。金やプラチナ、債券など対象にならないものもありますが、かなり広い範囲で投資できることがわかりますね。

■ 従来のNISAと併用は不可

ここまでお話ししてきた通常のNISAとつみたてNISAの違いから、それぞれの特徴、メリットがわかったと思います。だからこそ、両方とも使ってみたいという気持ちが出てくるのも不思議ではありません。

しかし、2018年8月時点において、従来のNISAとつみたてNISAは併用できないようになっています。NISAは一人一口座という決まりがあるためです。つみたてNISAは、従来のNISAの派生であって、大枠ではNISAであるため、別ものとして新たに口座を開設することができないのです。

そのため、NISAを利用したい場合は、従来のNISA、つみたてNISAのいずれかを選択しなければなりません。

つみたてNISAのデメリット

ここまで、従来のNISAとつみたてNISAの違いを紹介してきましたが、年間40万円まで非課税で、最大20年間非課税のメリットが活用できるなら、投資初心者だけれどもはじめてみたいと思った人もいるかもしれません。確かに、「非課税」という部分は、投資をするうえで大きな魅力になることは間違いないでしょう。しかし、非課税だからという点でつみたてNISAの利用をはじめても良いものなのでしょうか。知っておくべき、つみたてNISAのデメリット4つをみていきましょう。

■ 元本割れの可能性

普通預金や定期預金のような元本が保証されている金融商品しか扱ってこなかった場合は、あまりピンとこないかもしれませんが、つみたてNISAは元本割れの可能性がある金融商品です。つみたてNISAに限らず、投資信託を扱う従来のNISAなども同じく元本割れの可能性があります。

元本割れするというのは、投資につぎ込んだ額よりも資産が減ってしまう可能性があるということです。つみたてNISAであれば、これまで積み立てた額よりも資産の価値が下がる可能性があります。

つみたてNISAの投資信託は、どれも金融庁が厳選したものではありますが、国際情勢や景気の影響もあり常に資産が増えるとは限りません。リスクがある金融商品だという意識を持って利用するべきでしょう。

■ 投資対象商品が限定されている

証券会社などの金融機関で開設する一般口座は、多種多様の金融商品に投資できる口座です。投資信託だけに絞っても、数千単位で対象商品を選択することができます。投資信託以外にも、株式、金・プラチナ、JEIT、ワラント債、先物取引などさまざまな投資ができるのも魅力です。

一方、つみたてNISAで運用できるのは、厳選された株式含む投資信託とETFのみ。投資対象の商品がかなり絞られていることがわかります。同じNISAでも、従来のNISAは株式、JEITなどの取引ができるので、従来のNISAと比較しても運用できる商品は少ないです。

金融庁で厳選されているという強みはありますが、リターンを増やすためにもっと動きのある金融商品を選びたい場合、短期投資で資産を形成したい場合は、もともと長期投資向けのつみたてNISAは合わないでしょう。

■ 損益通算ができない

NISA口座でない、金融機関の一般口座などは損益通算が認められています。たとえば、複数の金融機関で口座を開設しており、口座A、口座B、口座Cがあった場合、全ての口座の利益と損失を合算して所得税の計算ができるということです。

全てがプラスなら加算される税金は変わりませんが、リスクのある金融投資でまったく損失が出ないとは限りません。仮に各口座年間で、A150万円の利益、B200万円の損失、C50万円の利益があった場合、プラマイ0にできるということです。損益通算ができないと、損失分が0で計算されるため、200万円の利益があったこととして所得税が計算されます。

しかし、NISA口座はもともと一部非課税ということもあって、損益通算ができません。つみたてNISAで損失が出ても、ほかの口座と合算できないため、損失分を税金の計算から除外することができないということです。

■ 繰越控除ができない

繰越控除とは、損益通算で出たマイナス分を3年に渡り繰り越せる所得税の控除を指します。つみたてNISAは、損益通算できないとお話ししましたが、損益通算の対象にならないため、当然繰越控除の対象にもなりません。

NISAで取引をしていく中でマイナスが発生した場合は、税金面の控除が受けられない点がデメリットになるでしょう。しかし、そもそもつみたてNISAは、年間投資額40万円まで非課税にできる制度です。損益通算できない、繰越控除ができない点はデメリットになりますが、非課税枠分を考えると取引額によってはそこまで大きな痛手にはならないでしょう。

つみたてNISAの活用で注意したいポイント

ここまでつみたてNISAの金融商品としての特徴とデメリットをお話ししてきましたが、運用していくと思わぬところで、つみたてNISAの使いづらさを感じてしまうことがあります。通常の一般口座と比較したとき、どういった部分に気を付ければよいのでしょうか。つみたてNISAの利用前に知っておきたい注意点4つをみていきましょう。

■ 余った非課税枠は持ち越し不可

つみたてNISAの非課税枠は年間40万円までと紹介しましたが、年間40万円というのは固定されています。たとえば毎月1万円ずつ、つみたてNISAで積み立てていったとします。年間すると12万円です。この12万円は非課税枠である40万円を超えないため、全額非課税の対象になります。

しかし、年間12万円だと、非課税枠の最大40万円を差し引いた28万円が余ってしまいます。この余った28万円はどうなるのかということですが、残念ながら余っても活用の余地はありません。非課税枠が持ち越せないためです。余った28万円を来年に持ち越して68万円に非課税枠を拡大することはできないのです。

そのため、非課税枠の持越しを期待して毎月数千円などの少額投資に徹する必要はありません。可能であれば毎月33,000円程度のペースで積み立てた方がつみたてNISAの非課税の恩恵を最大限活用できるでしょう。

■ 非課税枠は復活しない

つみたてNISAの非課税枠は年間40万円ですが、これは12月31日の最終的な投資額で適用されるわけではありません。1年を通して40万円までしか非課税にならないということです。

たとえば、年間の取引の中で、20万円積み立てた投資信託を解約して、別の投資信託を40万円買い付けたとします。20万円分の投資信託はすでに手元になく、あるのは40万円分の投資信託だけなので、一見40万円分そのまま非課税になりそうな気がするでしょう。

しかしNISA口座の非課税枠は売却したものも含めての計算になるため、この場合60万円の投資額が発生した計算になります。後から積み立てた40万円分の投資信託のうち20万円は非課税の対象にならないということです。このように売却しても、つみたてNISAの非課税枠は復活しないので売却や新たに投資するときの投資額には注意したいものです。

■ 分配金の再投資は新規買い付けになる

投資信託によっては、分配金といって発生した利益の一部を投資者に還元するタイプのものがあります。気を付けたいのが、分配金の再投資も新規買い付けとしてカウントされるということです。

投資額に対しての分配金であるため、少額で長期の保有を目的としたつみたてNISAで高額な分配金が発生することはまずありませんが、積立額ぎりぎりで投資していると思わぬ誤算が発生することがあります。

分配金の再投資でも非課税枠が使われてしまうため、分配金ありの投資信託を選択する場合は、分配金のことを考えた少し余裕のある投資がおすすめです。

■ 別の口座からの資産の移し替え不可

つみたてNISA含め、NISAの口座は別の一般口座などから金融商品を移し替えることができません。「一般口座で買い付けた投資信託をNISA口座でもやっていたので移動させたい」と思ってもできないということです。同じ金融商品でもまとめられないため、少し管理がややこしくなってしまいます。

また、NISAはさまざまな金融機関で取り扱かわれているため、サービスの差などから金融機関を変更したい人も出てくるでしょう。仮につみたてNISA利用中に金融機関を変更した場合、これまで利用していた金融機関のつみたてNISAの金融商品、資金ともに移動することができなくなってしまいます。

さらに、NISA口座は一人一口座のみになるため、以前の金融機関では新たに投資信託の買い付けができなくなります。つみたてNISAの金融機関を変更したい場合は注意しましょう。

まとめ

2018年1月1日よりスタートした「つみたてNISA」は、従来のNISAとは、非課税という共通点があるものの、まったく性質の異なるものになります。それぞれに良さがあるので、非課税のメリットを最大限に活用して投資をはじめたいなら、2つのNISAの性質をよく理解して選択しましょう。つみたてNISAを利用したいなら、まずは金融機関の選択から。それぞれの金融機関に特色があるので、使いやすさなども考えてつみたてNISAを活用していきましょう。