住宅ローンの契約時、加入がほぼ必須になっている団体信用生命保険、通称・団信。一般的な団体信用生命保険の保険金支払い条件は死亡や高度障害ですが、特約を付けることによって、死亡や高度障害以外にも対応できるようになりました。

そんな団体信用生命保険の中でもがん団信とはどのようなものなのでしょう。がん団信は必要なのか、それとも不要なのか。がん団信のメリット・デメリットを解説していきます。

住宅ローンのがん団信とは?

基本的に団体信用保険の保険金支払い条件は、被保険者が死亡(保険の対象者)、または高度障害になったときですが、そのほかにも住宅ローンの返済が難しくなることがあります。たとえば、病気による療養が続いたときです。がん団信は、そんな団体信用生命保険における特約のひとつ。がん団信について知る前に、団体信用生命保険についておさらいしてみましょう。

■団体信用生命保険とは?

団体信用生命保険(団信)は、住宅ローンのローン返済に特化した生命保険のこと。通常の生命保険は、被保険者が亡くなったとき、あるいは高度障害になったときに死亡保険金が受取人に支払われます。一般的な生命保険の受取人は家族なので、家族に保険金が渡ることになるでしょう。

団体信用生命保険の支払い事由は、通常の生命保険と保険金のように、死亡、あるいは高度障害で同じですが、保険金の受取人が異なります。保険金の受取が家族でなく、住宅ローンの契約を結んだ金融機関になるのがポイントです。また、一般的な生命保険のように保険金の額が決まっているのではなく、対象の住宅の住宅ローン残高分が支払い対象になります。

あくまで被保険者が死亡、あるいは高度障害になった場合に限られますが、保険金支払いの対象となった場合、被保険者の代わりに保険会社から金融機関に残りの住宅ローン分が支払われるため、残された遺族は住宅ローンの返済をすることなく引き続き自宅に住み続けることができます。

■がん団信とは?

がん団信とは、団体信用保険にがん保障の特約を付けたものです。一般的な団信は、死亡か高度障害でないと保険金が支払われませんが、特約を付けることによって、死亡か高度障害でなくても保険金が支払われるようにできます。

がん団信とは、保険金支払いの条件に、「被保険者ががんと診断されたとき」を加えたもの。がん団信であれば、被保険者ががんと診断されたときに、死亡や高度障害を待たず保険金が支払われ、住宅ローンが完済されます。中には、保険金が住宅ローンの満額分が出るのではなく、半額など支払いが一部に限られることもあります。

今や日本人の2人に1人が一生涯でがんになるといわれる時代。がんの治療や手術にはそれなりの費用が掛かりますし、場合によっては入院しなければならないため、収入が断たれてしまうことがあります。がん治療を理由に自宅を失わないためにも特約で付けておくと安心です。

■特約付き団信は多様化している

がん団信について紹介しましたが、がん団信に限らず、特約付きの団信は多様化してきています。たとえば、3大疾病保障や8大疾病保障です。3大疾病保障とは、日本人の病気での3大死亡原因である、脳卒中、急性心筋梗塞、がんを対象としたもの。診断されたからといってすぐさま保険金が支払われるものではありませんが、診断後、保険金支払い対象の状態が60日以上続いたときなどに保険金により住宅ローンが完済されます。

ほかにも、就業不能になったとき1年は毎月の住宅ローンの返済を代わりに行い、1年以上過ぎても就業不能状態が続くときに住宅ローンを保険金で返済してくれる特約「全疾病就業不能保障」、住宅が災害によって居住できなくなったときに保険金によって住宅ローンが完済される特約「自然災害補償」、一部要介護2以上の認定を受けることで保険金支払いの対象になる特約などがあります。

がんだけでなく、3大疾病や就業不能状態など、特約付き団信は多様化しています。特約を付けることで、さまざまな状況に対応できるのがポイントです。

■加入しないと住宅ローンは借りられないのか

住宅ローンの返済がストップすると金融機関側も困るため、多くの住宅ローンで団体信用生命保険に加入することが住宅ローン利用の条件になっています。すべての住宅ローンで団体信用生命保険への加入が必要なわけではありませんが、ほぼ必須条件といっても過言ではないでしょう。

しかし、人によっては健康状態などに問題があって団体信用生命保険への加入が難しいこともあります。団体信用生命保険に入れない場合は、住宅ローンの利用は断念するべきなのでしょうか。この場合は、団体信用生命保険への加入が必須でない住宅ローンを選択する方法があります。団体信用生命保険に加入できないからといって、住宅ローンの利用自体をあきらめる必要はありません。

がん団信に加入するメリット

ここまでがん団信とはどんなものかお話ししてきましたが、がん団信は団体信用生命保険において必要なものなのでしょうか?がん保険など、団体信用生命保険以外の保険の利用では意味がないのでしょうか。住宅ローン利用時に、がん団信を契約するメリット3つを紹介していきます。

■万が一の事態の備えになる

がん団信の大きなメリットは、万が一、つまりがんになったときの備えになるということ。一般的な団体信用生命保険の、被保険者死亡時、高度障害になったときという条件は一見良いように感じますが、実はカバーされている部分は限定的です。

被保険者が亡くならなくても、高度障害にならなくても、住宅ローンの返済が難しくなるケースは考えられます。住宅ローン返済が滞る原因のひとつにあげられるのが、長期の入院や大掛かりな手術などをともなう病気です。特にがんは、日本人の多くが発症する可能性があるといわれています。

しかし、実際に発症するかどうかはわからないもの。将来どうなるかわからない以上、備えておくことに越したことはありません。がん団信は、万が一がんになって長期の入院や治療を必要としたときでも自宅を失わないで済むメリットがあります。

なお、がん団信のほかに、がんに関する保険にはがん保険がありますが、がん保険とがん団信はまったく性質の異なるものです。がん保険は、医療保険の一種でがん治療のための入院費や治療費をカバーしてはくれますが、がん団信のように住宅ローン残高をカバーしてくれるわけではありません。

がん保険に入っているから大丈夫と考えるのではなく、住宅ローンの支払いが滞らないかどうかリスクをしっかり考えたうえでがん団信を契約することをおすすめします。

■住宅ローン残高に合わせて保険料が安くなる

がん保障の特約を含めた団体信用生命保険の支払いは、住宅ローンの金利に0.1%単位から上乗せされているケースがよくみられます。住宅ローンの支払いと合算されているため、団体信用生命保険の保険料を払っている意識はあまりないですが、しっかり上乗せ分で保険料分は差し引かれています。

団体信用生命保険が、毎月一定額ではなく割合になっているのは、住宅ローンの支払いが進むごとに保険金の対象になる住宅ローン残高が減っていっているため。住宅ローンの残高は減っていっているのに、被保険者の負担は変わらないのはおかしな話ですよね。

このように、支払い時期が進むにつれて住宅ローン残高も減っていくので、団体信用生命保険の保険料は安くなっていきます。保険料の負担は住宅ローン残高と連動しているので、加入していて損はありません。

■適応条件が明確

団体信用生命保険の特約には、がん保障以外にも、3大疾病、就業不能などいくつかあります。しかしだいたいの特約が、診断を受けるだけでは不十分で、いくつか条件をクリアして初めて保険金が支払われます。たとえば、同じ病気の3大疾病の場合、がん以外の適用条件は少し複雑です。

まず脳卒中の場合、脳卒中の診断を初めて受けて60日以上、麻痺や言語障害など神経系の後遺症が見られるとき、あるいは脳卒中の治療で手術を受けたときでないと保険金支払いの対象にはなりません。

急性心筋梗塞に関しても、治療のための手術のほか、急性心筋梗塞の診断を初めて受けて60日以上労働が制限される状態である必要があります。

脳卒中においても、急性心筋梗塞においても、手術以外の場合はどちらも60日という縛りがあることに注意したいです。つまり、手術以外のケースでは少なくとも2カ月は様子を見ないと、団体信用生命保険の保険金が支払われないことがわかります。

しかし、がんの場合、保険金支払いは医師による診断が確定すれば条件を達成したことになります。がん団信は、適応条件がわかりやすくシンプルなのもポイントです。

がん団信に加入するデメリット

ここまで、がん団信に加入することのメリットを紹介してきましたが、反対にがん団信に加入することでのデメリットはあるのでしょうか。がん団信はメリットも多いですが、実は、注意したい部分もあります。団体信用生命保険でがん保障の特約を付ける前に知っておきたい2つのデメリットをみていきましょう。

■借入時にしか加入できない

団体信用生命保険は、住宅ローンの契約途中では加入できない生命保険です。さらに、団体信用生命保険の加入だけでなく、特約であるがん団信などの加入も制限されます。住宅ローンを契約して、あとから団信を付けたいと思ってももう遅いのです。

通常の生命保険やがん保険などは、後で自由に変更や新規加入ができますが、がん団信は住宅ローンの契約時に限られるので注意しましょう。がん団信を利用したいと思ったら、住宅ローンを契約する前に団体信用生命保険でどんな特約を付けるか計画しておくことが大切です。

なお、特約については住宅ローンの支払いにどのように上乗せされるかなど、金融機関によっても対応が変わってきます。具体的な契約の段階に入る前に、しっかり金融機関の窓口などで相談しておきたいですね。

■契約内容の途中変更不可

がん団信は、住宅ローンの契約時でないと加入できないとお話ししました。無事に団体信用生命保険保険に加入しても、途中で契約の内容を変更することはできません。もし、団体信用生命保険契約時にがん団信を付け忘れたら、がん団信はずっと付けられないということです。

がん団信に限らずですが、団体信用生命保険の特約を付けたいなら、契約時のみがチャンスです。また、団体信用生命保険の途中変更ができないだけでなく、解約ができないものもあります。団体信用生命保険によりずっと縛られることになるので、住宅ローン契約前にしっかり計画を立てておきたいですね。

このように、がん団信は契約のタイミングが重要になります。住宅ローンの契約で、団体信用生命保険の特約の付与忘れがないように事前の準備は怠らないようにしましょう。

まとめ

住宅ローンの団体信用生命保険のがんの特約であるがん団信について、メリットやデメリットをお話ししてきました。団体信用生命保険に、死亡や高度障害だけなく、がんの確定診断も保険金支払いの対象に入れられるのは、がん団信の大きな魅力です。がんの発症が不安なら、付けておくことに越したことはないですね。

なお、メリットの多いがん団信ですが、住宅ローン加入時のみでの契約になること、後々契約の変更ができない点に注意して利用するようにしましょう。早め早めに計画を立て、住宅ローンの契約に備えることが大切です。