老後に備えて、公的な年金だけに頼らず自分で資産運用をして年金を作ることが当たり前になっている現在、確定拠出年金制度の利用を検討している方も多いと思います。確定拠出年金には、個人で行う「個人型」確定拠出年金と、企業が掛金などを負担する「企業型」確定拠出年金があります。今回は、「企業型」と「個人型」のどちらに加入するか迷っている方に向けて、これらの違いと特徴について詳しく解説していきます。

企業型確定拠出年金とは

企業型確定拠出年金とは、企業が個人の代わりに毎月掛金を負担して、従業員が自ら年金資産を運用する制度です。

従業員は掛金をもとに、さまざまな金融商品から自分にあった金融商品を選択、資産配分を行い、60歳まで運用を行います。そして60歳以降に一時金(退職金)または年金の形式で受け取ることができます。

また、企業が負担する掛金に従業員自身が掛金を上乗せする「マッチング拠出」という制度があります。掛金に上限はありますが、掛金を増やして運用益を増やしたいという方は、この制度を利用するとよいでしょう。

企業型確定拠出年金の税制優遇措置

企業型確定拠出年金には税制上の優遇があり、資産運用で得た利益は全額非課税です。個人で一般的な金融商品で得た運用益は課税対象になり、20.315%の税金がかかるので、税制の優遇措置は大きなメリットになるでしょう。また拠出する掛金も非課税となります。

そして給付の受取り時にも優遇措置があり、一時金(一括受取り)であれば退職所得として、「退職所得控除」が受けられ、年金で受け取る場合は雑所得とみなし、「公的年金控除」が適用されます。さらにマッチング拠出にも税制上優遇措置があります。従業員が拠出した掛金が所得控除の対象となり、所得税と住民税が軽減されます。

確定拠出年金「企業型・個人型」の違い

確定拠出年金の「企業型」と「個人型」では加入方法や運用方法、給付方法などに違いがあります。たとえば加入方法は、「企業型」では企業が指定する金融機関のなかで金融商品を選び運用しなければならないのに対し、「個人型」は自由に金融機関を選び、商品を購入して運用できます。

その他にも掛金の上限金額や運用にかかる手数料など、「企業型」「個人型」で異なる部分があるので注意が必要です。ここからは、それぞれを比較しながら詳しく解説していきます。

加入方法

「企業型」、「個人型」で加入方法が異なります。「企業型」は、勤務先の企業が企業型確定拠出年金を導入していれば、自動的に加入となります。一方の「個人型」は、自ら金融機関を選んで申し込む必要があります。

拠出限度額(掛金)

掛金はそれぞれ上限が定められています。「企業型」は企業年金制度がない場合は、月額 55,000円、ある場合は月額27,500円です。「個人型」は、勤務先に企業年金制度がない場合は月額23,000円、自営業者などは月額68,000円です。

納付方法

納付は「企業型」の場合は勤務先企業が納付を行いますが、「個人型」は、会社員の場合は給与からの天引きか口座振替のいずれか、自営業などの方は口座振替での納付になります。

金融機関・運用方法

「企業型」は、企業があらかじめ金融機関と運用商品を決めているので、加入前に毎月の掛金で購入する運用商品や配分の割合を決めるだけです。「個人型」は、自分で金融機関、購入する商品などすべて決める必要があります。

運用管理・運用にかかる費用

確定拠出年金の運用管理には2種類の費用が発生します。信託報酬(運用管理費用)と口座管理手数料があり、「企業型」は企業が負担しますが、規約によって自己負担になる場合があります。「個人型」は全額負担になります。

給付方法

「企業型」「個人型」ともに60歳時点で加入していた期間が10年以上ある場合、60歳から給付を受け取る資格が発生します。「企業型」の場合、一定の金額を一定期間受け取る方法(老齢年金)と、全額を一括で受け取る方法(老齢一時金)があり、「個人型」では、これらに加えて、老齢年金と老齢一時金を併用することも可能です。

企業型確定拠出年金の注意点

企業型確定拠出年金には、税制優遇や掛金を企業が負担してくれるなどのメリットがありますが、注意しなければならないことが2点あります。ひとつ目は「金融機関(運営管理機関)」を自分で選ぶことができないことです。これは企業があらかじめ金融機関と契約しているためです。

ふたつ目は、確定拠出年金を利用すると将来受け取る厚生年金や各種社会保険料の金額が減ってしまう点です。ここからはこの2点について詳しく解説していきます。

金融機関(運営管理機関)を自分で選べない

企業型確定拠出年金の場合は、勤務先企業が退職金制度の一環として導入しています。掛金の負担や投資教育などを行ってくれるというメリットがある反面、企業が金融機関と契約をしているので、「個人型」と異なり自分で金融機関を選ぶことができません。

金融機関ごとに金融商品が異なる上、投資信託などでは手数料(信託報酬)が高い商品が混ざっている場合があります。個人であればそのような商品の多い金融機関を選ばなければよいのですが、企業型ではそうはいきません。

老後資金を増やせるかどうかは自分の運用次第なので、手数料はなるべく安い商品を選びたいところです。商品を選ぶ際には、手数料をよくチェックしましょう。

確定拠出年金で保険料の標準報酬月額が減る

給料の一部を確定拠出年金にまわすと、厚生年金や社会保険料などを決める「標準報酬月額」の等級が下がります。等級が下がると、所得税や社会保険料などの支払額が減るというメリットがありますが、その代わり、将来受け取る厚生年金や社会保険の給付が減ってしまうのがデメリットです。

さらに「障害厚生年金」や「失業保険」、「出産手当金」「介護休業給付金」などの受給額も減ってしまいます。たとえば、東京都在住、35歳、月収40万(ボーナス3ヶ月)で、月5万円の掛金で25年間加入した場合、加入しない場合と比べて、厚生年金の保険料は支払総額が約1,200万円減ります。しかし老齢年金の受取り額(65〜85歳の20年間)は、総額で約288万円減ってしまいます。

まとめ

「企業型」「個人型」のどちらにも共通することは、掛金を運用するのは自分自身であるという点です。確定給付年金のように加入期間によって貰える金額が決まっている訳ではなく、自分自身の運用手腕にかかっています。「企業型」は企業が契約している金融機関が用意している商品から好みのものを選び、掛金の配分を決めるだけでよいので、「個人型」よりは運用に負担がかかりませんが、制限があります。一方の「個人型」は自由に選べる分、より知識が必要になります。この記事を参考にしてご自身にあった方を選択し、将来の資産形成に役立ててください。