親が認知症になる前にすべき相続対策|家族信託の基本と手続きを解説

親が認知症になる前にすべき相続対策|家族信託の基本と手続きを解説
親が認知症になってからでは「財産が凍結されて何もできない」という事態が起こりえます。その前に有効な対策が「家族信託」です。家族信託とは、信頼できる家族に財産の管理・運用を託す制度で、認知症対策と相続対策を同時に実現できます。この記事では家族信託の基本から費用・手続きまで、わかりやすく解説します。

1. 認知症になると何が起きる?銀行口座凍結のリスク

親が認知症と診断され、その情報が銀行に伝わった時点で口座が「凍結」される場合があります。凍結されると、生活費の引き出しも施設の費用支払いもできなくなります。また、不動産の売却・賃貸・修繕契約も本人なしでは進められなくなります。

⚠️ 口座が凍結されるきっかけ
・家族が銀行の窓口で「親は認知症です」と伝えてしまった場合
・窓口での様子や言動から銀行員が認知症を疑った場合
・他の兄弟姉妹が銀行に通報した場合
一度凍結されると解除は非常に困難です。

2. 家族信託とは?3つの登場人物と仕組み

家族信託は委託者・受託者・受益者の3者が関係する制度です。

役割誰が担う?何をする?
委託者親(財産の持ち主)財産を受託者に預け、管理・運用を任せる
受託者子ども・配偶者など信頼できる家族委託者の意向に従って財産を管理・運用・処分する
受益者通常は委託者(親)本人信託によって生じる利益を受け取る

たとえば父親が認知症になった場合でも、あらかじめ家族信託を結んでいれば、子ども(受託者)が父親(受益者)のために財産を管理し続けることができます。

3. 家族信託のメリット・デメリット

メリットデメリット・注意点
認知症による資産凍結を防げる節税効果はない(相続税対策にはならない)
家族が柔軟に財産管理・不動産売却ができる身上監護権(介護施設への入居契約等)は持てない
二次相続以降の財産承継先も指定できる(遺言より強力)受託者になれるのは家族のみ(専門家は不可)
成年後見制度よりランニングコストが低い契約書の設計が複雑で、専門家なしでは失敗リスクがある
不動産の積極的な運用・投資も継続できる相続空き家特例(3,000万円控除)が適用されない場合がある

4. 成年後見制度との違い

項目家族信託成年後見制度
利用できる時期判断能力がある間のみ(認知症発症前が必須)認知症発症後でも可能
費用(初期)30万〜100万円程度申立費用数万円〜
費用(ランニング)ほぼかからない(家族が受託者の場合)専門家が後見人の場合、月2〜6万円が継続
財産運用の自由度高い(信託契約の範囲内)低い(家庭裁判所の監督下)
身上監護できないできる

身上監護が必要な場合は、家族信託と任意後見制度を併用するのが最も実用的です。

5. 家族信託の費用と手続きの流れ

💴 費用の目安(専門家に依頼する場合)
  • 専門家報酬:信託財産の約1〜1.5%(最低30万円〜)
  • 公正証書作成手数料:財産3,000〜5,000万円の場合、約2.9万円
  • 不動産の登記費用(登録免許税):固定資産税評価額×0.3%(2026年3月末まで軽減税率)
  • 総額目安:50万〜100万円程度(財産の規模や内容による)
1

家族会議で信託の方針を決める

何の財産を信託するか・誰が受託者になるか・信託の終了時期などを家族全員で話し合う。

2

司法書士・弁護士などの専門家に相談

家族信託の設計は複雑なため、経験豊富な専門家への依頼を強く推奨する。費用の見積もりをとる。

3

信託契約書を公正証書で作成する

公証役場で公証人立会いのもと公正証書として締結。「契約時に判断能力があった」ことの証拠になる。

4

信託口口座を開設・不動産の名義変更

預貯金は信託専用の口座を開設。不動産を信託する場合は法務局で受託者名義に登記変更する。

5

信託開始・管理運用スタート

受託者が委託者の意向に従い財産を管理・運用する。定期的に受益者(親)に報告する義務がある。

6. 家族信託を使うべきケース・使わないケース

家族信託が向いているケース向いていないケース
不動産(特に賃貸物件)を保有している相続税を節税したい(節税効果はない)
二次相続以降の財産の承継先も決めておきたい認知症が進行して既に判断能力がない
成年後見制度のランニングコストを抑えたい信頼できる家族がいない・家族関係が複雑
親が元気なうちに早めに対策をしたい身上監護(施設入居契約等)も任せたい(後見制度を併用)

📝 まとめ

  • 認知症になると銀行口座が凍結され、財産の管理・処分が一切できなくなるリスクがある
  • 家族信託は判断能力があるうちに設定する必要がある(発症後は原則不可)
  • 委託者(親)・受託者(子ども)・受益者(親)の3者で構成される契約
  • 費用は専門家に依頼した場合、総額50〜100万円程度。ランニングコストはほぼかからない
  • 節税効果はないが、資産凍結防止・柔軟な財産管理・二次相続対策に非常に有効
  • 身上監護が必要な場合は任意後見制度と併用する