急な病気で倒れたり、大きなケガを負ったりするなど、もしものときはいつ訪れるかわかりません。いつ何が起こるかわからないからこそ、死亡や高度障害に関して一生涯の保障があったほうが安心です。生命保険を期間で分けると、おおまかに終身死亡保険と定期保険となります。そのうち、生涯を保障してくれるのが終身死亡保険です。

しかし、世の中には終身死亡保険でなくても、死亡時に備える方法はいくつもあります。終身死亡保険の内容を紹介しながら、終身死亡保険の必要性についてお話しします。

終身死亡保険とは?

終身死亡保険は、生命保険の一種で、一生涯に渡って被保険者の死亡と高度障害を保障する内容の保険です。保険でありながら貯蓄性の高い生命保険で、仮に解約したとしても、これまで払い込んできた保険料の一部を解約返戻金として受け取ることができます。保証期間が10年や20年などと決まっている生命保険の定期保険と比較されることもある保険です。それでは、終身死亡保険にはどのような特徴があるのか、3つのポイントから見ていきましょう。

■保険期間が一生涯

終身死亡保険は、終身という言葉からもわかるように、保障期間が一生涯に渡って続く生命保険です。解約しない限り、被保険者が死亡するまで保険金支払いの対象になります。ずっと保障がきくという面では安心感がありますね。

そんな終身死亡保険と対照的なのが、保険期間が定められた定期保険です。定期保険は、10年や20年などと期間が決められているので、もし契約が切れてしまった場合は、新たに生命保険に入りなおすか、更新する必要があります。終身死亡保険の手続きは、基本的にはじめの契約のみなので、定期保険のように入りなおしたり、更新したりといった面倒な手続きが何度も発生しません。

■保険料がずっと変わらず一定

終身死亡保険の保険料は、契約時の年齢や健康状態によって決まります。途中で保険金を減額するなど保障の内容を見直さない限り、保険料が変更されることはありません。保険料が一定なので、老後もずっと支払っていける金額かなど、将来の見通しや支払い計画が立てやすくなります。

一方、終身死亡保険と対をなす定期保険は、契約期間終了後に保険料が上昇するタイプの生命保険です。保険会社や金融機関を変えて、あるいは商品の内容を変更しての新規での契約はもちろん、更新であっても一度期間が終了しているため、保険料が年齢に適したものに見直されます。はじめのうちは少額でも、年齢が上がるにつれて定期保険の保険料が上昇するため、老後も払い込みを続ける場合には支払いが厳しくなるケースも少なくありません。

■掛け捨てにならない

終身死亡保険と反対の性質を持つ定期保険は、掛け捨て型の生命保険です。被保険者の死亡時、または高度障害になった場合のみに保険金が支払われるタイプで、解約などの保険金支払い事由以外でお金が返ってくることはありません。

一方、終身死亡保険は、貯蓄性のある生命保険です。死亡時や高度障害になったなど保険金の支払い対象になったとき以外にも、解約時に払い込んだ保険金の一部を返してもらうことができます。解約時に戻ってくるお金のことを解約返戻金といいますが、保険の契約期間が長いほど、戻ってくる割合も高くなります。

既に終身死亡保険の払い込みが完了している場合は、解約返戻金が払い込んだ額以上になることも少なくありません。万一、終身死亡保険を解約することになっても、保険料全額が無駄にならないのがポイントです。

終身死亡保険のメリット

ここまで、終身死亡保険とはどのような生命保険なのかお話ししてきました。それでは、生命保険を定期保険ではなく終身死亡保険にするメリットはどこにあるのでしょうか。終身死亡保険を選ぶべき3つの理由を紹介します。自分にとって終身死亡保険は本当に必要なものなのか、考えながら読み進めてみてください。

■ライフスタイルに合わせて活用できる

終身死亡保険は、貯蓄性があり、解約時には解約返戻金が支払われることをお話ししました。この終身死亡保険の解約返戻金がミソで、60歳や65歳など契約時に定めた保険料払い込み期間をある程度過ぎると、解約返戻金の額が払込保険料よりも多くなります。

終身死亡保険の本来の目的は死亡時の保障ではありますが、何も死亡時の保障にこだわる必要はありません。死亡時の葬儀費用などとしても活用できますが、葬儀費用の準備があるなら、途中で解約してほかの支払いに充てることもできます。

終身死亡保険の解約返戻金を目当てに、第2の目的として活用されることが多いのが、子どもや孫の学資保険の代わりとしての使い方です。学資保険には満期が設定されていますが、終身死亡保険には満期がないため、自由に解約して、解約返戻金を得ることができます。孫や子どもの学費でなくても、自身の治療費や生活費として活用することも可能です。老後の貯蓄のような感覚で、ライフスタイルに合わせて柔軟に活用することができます。

■相続税対策として活用できる

相続税の計算では、一定の死亡保険金について非課税対象にできます。非課税の対象となる額は以下のとおりです。

500万円 × 法定相続人の数

つまり、法定相続人の数が3人であれば、合計で1,500万円までの死亡保険金が非課税にできるということです。法定相続人それぞれに死亡保険金の額が平等にあったとして、各々500万円を超えなければ死亡保険金において相続税が発生することはありません。

そもそも相続税は以下のように基礎控除が設けられており、相続した純資産の価値が基礎控除を超えないと相続税は発生しませんが、相続する財産に不動産があると、基礎控除をゆうに超えてしまうことがあります。

基礎控除額 3,000万円 + 600万円 × 法定相続人の数

基礎控除を超えて相続税が発生する場合、現金に関しては死亡保険金のような非課税枠がないため、超過分は丸々相続税が課されることになります。相続税が発生しそうなときに、現金を相続人に相続させたい場合は、死亡保険金を活用すると相続税対策になるため便利です。

■資金計画が立てやすい

終身死亡保険の特徴でも触れましたが、終身死亡保険はずっと一定額の保険料で、保険金の額を変更するなどしない限り保険料が変わることがありません。

しかも終身という名前がついていることから、ずっと払い続けないといけないのではという不安もあるかもしれません。しかし、あくまで保障が終身というだけで、保険料の払い込みは早期に終わらせることができます。シニア向けの終身死亡保険は別ですが、だいたいは60歳、65歳など定年に合わせて保険料の払い込みが終了することが多いです。

掛け捨てタイプの定期保険は、更新のタイミングなどで保険料が上がってしまいますが、ずっと一定なので具体的に貯蓄など資金計画を立てることができます。定期保険と比べて、将来がイメージしやすいのがメリットです。

終身死亡保険のデメリット

終身死亡保険の利用にはデメリットもあります。終身死亡保険を利用したいと考えているなら、デメリットもしっかり頭に入れておくことが大切です。終身死亡保険について知っておきたい3つのデメリットについてお話ししていきます。

■早く解約すると損をする

終身死亡保険は、ライフスタイルに合わせて柔軟に活用できるとお話ししました。その際、解約時に発生する解約返戻金が活用できることを紹介しましたが、解約がいつでも効果的なわけではありません。あくまで解約返戻金が払込保険料の額を上回ったときにメリットがあるということです。

早い段階で解約すると、払い込んだ保険料分が戻ってくるどころか損をしてしまいます。契約したばかりの頃は、解約返戻金が払込金額の50%など低めに設定されがちです。払込保険料の80%、90%になると解約時におおかた回収はできますが、それでも回収できなかった分は損をしてしまいます。

つまり終身死亡保険は、頻繁に契約を見直したり、保険を変更したりするのには向いていないということです。終身死亡保険を契約するときは、一生涯契約を続けていく気持ちで契約を結ぶべきです。

■保険料が割高

生命保険には、終身死亡保険のほかに定期保険があることをお話ししましたが、定期保険と比べると終身死亡保険の保険料は割高です。理由は、終身死亡保険は死亡であっても、解約であっても基本的に保険金あるいは解約返戻金が支払われるためです。

定期保険のような掛け捨てタイプの保険は、被保険者死亡時など保険の支払い事由に該当した場合のみに支払われます。しかし、終身死亡保険は契約者のほぼ全員に死亡保険金、あるいは解約返戻金が支払われる内容です。保険金の支払いの原資を確保するために、定期保険よりもどうしても保険金額を上げる必要があります。

しかも、定期保険のような相互扶助の保険というよりは、半分は貯蓄のための保険です。定期保険にはない、解約返戻金の支払い、死亡時の保障が確定しているため、どうしても保険料が割高になってしまいます。

■保険料払い込み期間が長い

終身死亡保険の払い込みは、一括払いも可能ですが、仮に500万円だった場合、一括で払い込むことができる人はどのくらいいるでしょうか。40代、50代などある程度貯金がある世代ならまだしも、20代や30代など、家族ができてこれからお金がかかる人も多い世代では一括払いできる人は限られてきます。

中には、終身死亡保険を一括で払うくらいなら、住宅購入の頭金に充てたいという人もいることでしょう。一括払いの選択肢が消えるとなると、年払いあるいは月払いによって終身死亡保険料を払い込んでいくことになります。仮に30歳で、60歳が払込終了だったとすると30年間保険を払い続けなければなりません。

しかも、終身死亡保険の保険料は掛け捨ての定期保険と比べると割高です。保険料が高いうえに払い込み期間が長いとなると、家計の負担になることもあります。資金計画を立てていたとしても、突然の転職や休職などで一時的に収入が減る可能性もゼロではないためです。

終身死亡保険は本当に必要?

ここまで終身死亡保険のメリット・デメリットについてお話ししてきました。メリット・デメリット両方を踏まえたうえで終身死亡保険を選択するかどうか決めていく必要があるでしょう。それでは、具体的にどういった人に終身死亡保険が向いているのでしょうか。反対に、終身死亡保険が必要ない人とは?終身死亡保険の必要性についてみていきましょう。

■終身死亡保険が必要な人は?

終身死亡保険の活用がおすすめなのは、計画的にお金を貯めることが苦手な人です。車を購入する、大型家電を購入するなど、直近の目標であれば達成できても、老後の資金形成となるとピンとこない人もいるかもしれません。しかし、まだまだ先の話だからと貯蓄を後回しにしていると、老後資金の用意もできないまま定年を迎えてしまいます。

その分、終身死亡保険は毎年、あるいは毎月確実に保険料として差し引かれるので、半強制的に老後資金を貯めることができます。解約返戻金が払込保険料を上回った段階で解約をすれば、老後の生活費として活用することができます。ほかにも、学資保険の代わりに利用したい人にも終身死亡保険の解約返戻金の活用はおすすめです。

解約返戻金の活用以外で終身死亡保険が必要なのが、自身の葬儀費用を用意しておきたいと考える人です。老後、資金を形成していても病気などで思わぬ出費がかさむかもしれません。何が起こっても葬儀費用だけは確保したいと考えるなら、預金とは別に、死亡時に支払われる終身死亡保険を契約する意味があります。

■終身死亡保険が不必要な人は?

終身死亡保険が必要ないのは、老後のための貯蓄が十分にある人です。先に紹介したように、終身死亡保険の解約返戻金が払込保険料を上回るのには時間がかかります。しかも、解約返戻金が増えていくといっても限定的です。十分な貯蓄があるなら、終身死亡保険にこだわる必要はありません。投資信託や国債購入など運用に回したほうが、資産を効果的に増やせるでしょう。

また、そもそも貯蓄が十分にある人は、葬儀費用の用意ができないということもないかと思います。葬儀費用も解約返戻金による老後の生活費への充当も、老後資金が用意できない可能性があるときにはじめて生きるものです。

終身死亡保険を遺族への生活保障に充てたいなら、それは間違った選択肢といえます。終身死亡保険は、払い込む保険金の割に、死亡保険金を大きくかけられないためです。死亡保障を厚くしたいのであれば、定期保険を契約したほうが良いです。

まとめ

生命保険には、一生涯死亡保障を受けられる終身死亡保険があります。計画的に貯蓄していくことが難しい人にとって便利な保険ではありますが、必ずしも必要とは限りません。貯蓄が十分な場合など、人によっては終身死亡保険を利用するよりも投資信託など運用に回したほうが良い場合もあります。

葬儀費用は預金等でまかなえないのか、老後の資金形成はその他の方法でできないか、自分のライフスタイルと照らし合わせたうえで活用しましょう。